第7話 地獄の日常

 目を覚ましたのはおそらく深夜の時間だった。


 何か体に重みを感じて目を覚ます。


 おいおいおい、もしかしてこれが金縛りか?と思っていたのだが、暗闇の中でも人の吐息と体温を感じる。


「...おい。何してんだ」


 うっすら目を凝らして見えたのは風夏の姿...。そして、俺の体の上に乗っていたのだ。


「...しぃー、お姉ちゃん起きちゃいますから」


「...じゃなくて...降りろよ」


「嫌です。お兄さんが起きないようにしんちょーにここまで来たのに、何で降りないといけないんですか」


「いや、俺起きちゃってるから。勘弁してくれよ...。ただでさえソファでちょっと寝ずらいのに」


「だから私とベッドで寝ればよかったじゃないですか」


「いやいや、流石にそれは無理だから。てか、早く降りてよ...」


「...そんなに拒絶しなくてもいいじゃないですか。もしかしてお姉ちゃんを見て、また無謀にも好きになっちゃったなんて言わないですよね?」


「...そんなんじゃないって。今も昔も憧れの存在で...手が届くなんて思ったことないから」


「...そう...ですか。ならいいです」


 そういうと、そのまま俺の体に重なるように、俺の胸に頭をそっと置く。


「...」


 どかすこともできなかった俺は疲れからすぐに寝てしまうのだった。



 ◇


「いたたたたった!!」


 ほほに鋭い痛みが走り目を覚ます。


 すると、目の前には識宮さんがいた...。

夢か?と、思っていたが眉間にしわを寄せており大分オコであることがすぐに分かる。


 よくわからないが反射で「すみませんでした」といった後に、俺の体の上に乗った風夏に気づき、更に俺の手が風夏を抱きしめているようになっていることに気づき、すぐに状況を察知する。


「...はぁ。どうやら私が泊まって正解だったみたいね。二人なら何をしていたのやら...」


「いや!これは...!」と、誤解を解こうとしていると、そのままゆっくり起き上がる風夏。


「あぁ...お兄さんだ...へへへ」と、猫のように頬を擦りつけてくる。


「おい!」


「あらあらあら...随分と仲が良いことね...」


 まずいって!


「あぁ、も、もうこんな時間か!早く仕事行く準備しないと!」と、いい無理やり風夏を剥がしてそのまま準備を始める。


 すると、「風夏。あなたも制服とかは家でしょ。早く帰るわよ」と、頬をつねる識宮さん。


「ほげ!?もう朝...!?やば!こんな時間じゃん!」と、その場で着替えようとする風夏。


 俺は急いで風呂場のほう行き、スーツに着替える。


「じゃあ、またね!お兄さん!」「添田くん、ありがとうね。じゃあ、また今度」


 そういって二人ともいなくなるのだった。



 ◇


 うぅ...体が重い...。

そんなことをつぶやきながら本日も地獄の出勤を行っていた。


最近、優秀だった2個下の子が辞めてしまったのでその分もカバーすべく仕事をしていたわけだが...正直かなり限界ギリギリといった感じだった。


 下手すりゃ来週は休日返上で仕事かなぁ...とか考えながら出勤する。


 正直、仕事は大嫌いだ。

経理系の事務仕事をしているが周りは女性ばっかだし、そのせいでしょうもない派閥みたいなのに巻き込まれるし。


 誰かが休めばその人の悪口を言い、その人が出勤してきたら何事もないかのように笑顔で話しているさまなんて、もはやライアーゲームでもやっているんじゃないかと思うくらいメンタルがやられる。


 そういうのに巻き込まれたくない俺は基本的に干渉せずにいたら、容易にボッチになり仕事もやりづらくなっていた。


 しかもいまだに年功序列が蔓延っているせいでまともに仕事しないおばさんがいい給料をもらっているのとか、正直腹立たしい限りである。


 けど、今から転職しても...また同じことになるかもだし、下手すりゃここよりひどいこともありえる。

何より、俺自身別に仕事ができるわけではないのだから、転職が難航するであろうことも簡単に想像つくのだった。


 はぁ...いやだな...。


 そう呟きながら今日もタイムカードを押すのだった。

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