「知ってるかい アリー」

第1星:タイムマシン


「知ってるかい アリー!」


「どうしたの アル」


 僕たちの会話は、こんな決まり文句で始まる。




 アリーはふわふわとした綺麗なブロンドの髪の毛を

いつも可愛らしいリボンで飾りつけているんだ。


青い瞳は

いつか見た図鑑のアクアマリンを思わせるほど輝いている。


透き通った肌に浮き上がるそばかすは

僕が「隠さないで」って言ったんだ。


さくらんぼ色のティント(アリーが言うには 口紅とは違うんだって)を塗ったその唇から発せられる声は

まるで天使のよう。




「タイムマシンの中は

地球より時間の流れが遅くなるんだってさ!」


「あら そうなの?」


「そうなんだ!

もしも僕たちがタイムマシンに乗ったら

僕たちは1才しか歳をとらないのに

地球のみんなは7才も歳をとっているんだよ!」


「本当に!」


「本当に!

もっと僕たちが乗り続けることができるのなら

地球のみんなは子どもどころか

孫まで生んでいるだろうね!」


「あら すごい!」



「もしもタイムマシンがあったら

アリーと僕はもっと一緒にいられるね!」


「そうね」




 アリーはずっと

小さな頃から病気と闘っている。


フジノヤマイって言う名前の病気なんだ。


喘息で時々入院する僕とは違って

アリーはずっと病院にいるんだ。



 でもみんな アリーに言っているんだ。


「治る」って。




 無機質な白い病室。


糊でかたくなったシーツの上に

アリーはいつも座っている。


だから僕は

重たいお布団をヒザ辺りまで掛けてあげるんだ。


体を冷やさないようにね。


そしてそのベッドの横に置かれた

プラスティックの丸椅子に座って

アリーとこうやっておしゃべりをするんだ。




 アリーはいつも窓の外を眺めている。


あ。


水瓶に入った彼岸花はしおれてしまっている。



 僕は「新しい花に変えようか」と言った。


けれどアリーは「そのままにしておいて」って言うんだ。




 その横顔を

僕は愛らしく思うんだ。



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