第4話 存在しないフィールド


 将呉の場所を地図で確認すると、目の前にある破壊されたビルの反対側に赤い斑点と青い斑点が一緒の場所にいる。シーカーはその場所に恐る恐る近づいていく。

 反対側を見たシーカー。そこには衝撃の光景が広がっていた。


「た、助けてくれ!!」

「……」


 仮面の男が右手でSyoの顔を掴み、ビルにめり込ませていた。ビルは顔をめり込ませた場所から大きな亀裂が入っていた。

シーカーは仮面の男に大声で叫んだ。


「だ、誰だお前は!!」

「う、うわぁぁぁ!!」


 Syoの顔を掴んでいる右手が徐々に光り始めてきた。するとSyoの体が足から徐々に粒子化し、消え始めてきた。シーカーは呆然として、ただ見ているだけだった。


「あ……何だ一体……」


仮面の男は一旦その場から離れた。Syoは自分の消えていく体を見て悲痛な叫びを上げるだけであった。


「な、何なんだよ……一体よぉ!!」


 シーカーは驚きのあまり、何もできず、ただ親友が消えていくのを震えて眺めているだけだった。

 そしてSyoは思わず悠斗の名を叫んだ。


「悠斗ぉ‼︎助けてくれぇぇ‼︎」


 Syoの叫び声は虚しく、顔まで消えた時に仮面の男は静かに口ずさんだ。


「スキル発動……"デリート"……」


 その瞬間、Syoは完全に跡形もなく消え去った。その光景にシーカーは脳裏に焼き付いた。目の前で親友が無残に消えていった。すぐに仮面の男に睨みつけた。


「な、何をしやがった……!!」


 震える声のシーカーに、仮面の男は静かにこちらを向き喋った。


「今のやつのデータは全て消去した……」

「……どうゆう事だ!!」

「データそのものを消した。つまり、見たやつは全員……この手で排除だ」


 シーカーの話を聞く耳も持たず、男は再び剣を出しこちらに向けて来た。戸惑うシーカー、そしてメサから決闘モード開始の文字が現れた。


「承認してないのにバトルだと!?まさか、Syoの奴もこれで……」

「はぁ!!」


 考えてる暇もなく、仮面の男がシーカーに襲いかかる。剣を構えてボードでこちらに突っ込んで来る。

シーカーもすぐに戦闘態勢を取り、構えた。勢いよく迫る仮面の男は目の前まで接近すると、刀を大きく振り下ろした。


「くっ……やるしかないか!!」


 シーカーは咄嗟に刀に出し、振りかざしてきた攻撃を刀で受け止めた。だが、予想以上の力に弾き飛ばされ、後方へと体が吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた方角には浮いたビルがあり、ボードから足が離れて、窓から勢いよく突っ込んでいた。


「ぐはっ……‼︎」


 窓ガラスを突き破り、ビルの中で何回転もして、部屋の壁に強く背中をぶつけた。


「いってぇな……ゲームの世界で助かったぜ……⁉︎」


 背中に手を当てながら立ち上がり、突き破った窓を見る。すると、仮面の男が窓の外から剣、ではなく片手でショットガンを構えていた。距離は約10m、シーカーは腰を上げて動く用意をし、その動きを見逃さんと仮面の男は静かに引き金を引いた。


「や、やべっ‼︎」


 男はショットガンを撃った。シーカーは瞬時に左のドアをタックルして突き破り、隣の部屋に転がり込んだ。まさに間一髪のところであった。弾が当たった壁には大きな穴が開いていた。


「ちっ……」


 仮面の男もボードから降りて、シーカーが突き破った窓からビルに侵入する。そしてショットガンから剣に武器を変え、臆する事なくシーカーが飛び込んだ部屋に歩き進む。


「……」


 部屋に入るも、そこにシーカーの姿もなければ気配もなかった。周りを見渡す仮面の男。慎重に部屋へと足を踏み込んだ瞬間、突然頭上から上の階の床が抜けた。


「俺はここだぁぁ‼︎」


 そこからシーカーが出ましたと言わんばかりの笑みで刀を両手で持ち、仮面の男の頭上目掛けて刀を振り下げる。


「ちっ‼︎」


 仮面の男も負けじと瞬時に反応し、振り向きながら剣で攻撃を受け止め、お互いの剣がぶつかり合い、火花が散りながら鍔迫り合い状態になる。

 その最中シーカーは余裕そうに仮面の男に聞く。


「ふっ……中々やるなあんた……こんなバグった場所で何してるんだい……」

「それを答える義理がとこに……?」

「そりゃあ簡単には答えてくれないよな!!」


 シーカーは1度相手の力を利用し、力を弱めてワザと後ろへとジャンプした。そしてジャンプした状態で、左手から白い筒を出し、地面に投げつけた。


「クソっ‼︎」


 地面に当たる直前、仮面の男はショットガンを出すが、時すでに遅かった。筒が地面に当たった瞬間、その部屋全体を白い煙が充満し、視界を失った。白煙筒を投げたのだ。一時的な相手の視界を悪くするアイテムでそこそこ使い勝手が良い。

 その間にシーカーは窓へとダッシュし、メサを操作して窓付近にダッシュボードを出した。


「あらよっと‼︎」


 ダッシュボードに飛び乗りそのまま何処かへと飛び立って行った。

 煙が充満した部屋の中では、仮面の男が呆然と立ち尽くしていた。


「……手の掛かる奴め……⁉︎」


 煙がなくなると異変に気付いた。部屋の至る所に箱型の設置型爆弾が張り巡らされていた。シーカーが部屋を出る時、持っていた設置型爆弾を適当に部屋のあちこちに投げ捨てて行ったのだ。

 Syoがやられたビルのシーカーはボタンを持って待機していた。


「下手に近づくと危ないんでね……それ‼︎」

「くっ‼︎」


 ボタンを押したその瞬間、部屋が大爆発を起こした。それどころかビル全体にまで響き渡り、ヒビが入っていった。

 ビル周辺には煙が立ち込み、仮面の男はがどうなったのか分からない状態になっている。シーカーは期待を抱き、地図を見る。赤い斑点がなければ帰還できる……


「やったか⁉︎……」


 地図には赤い斑点が残っていた。そして煙の中からダッシュボードに乗った仮面の男が出て来た。


「まだ生きてたか……中々やるな……なら」


 シーカーに向かってくる仮面の男、すると目の前のビルから無数の小さな赤いクリスタルが窓を突き破り、こちらに猛スピードで向かって来た。


「くっ……めんどくさい奴め」


 仮面の男の目の前で、クリスタルは赤い閃光を放ち爆発を起こした。煙が舞い、仮面の男は体に火がつき、火が燃え移ったフードを手で振り払う。

 シーカーが目の前で臆する事なく、猛スピードで煙の奥から現れて仮面の男に剣を横に振りかざした。


「うおぉぉぉぉぉ‼︎」

「ぬっ‼︎」


 その一撃は仮面の男にはお見通しだったのか、攻撃を読まれて剣でボードごと上に弾き飛ばされた。


「ちっ‼︎」


 仮面の男は追撃で上にいるシーカーにショットガンを向けた。その瞬間にシーカーは再び白煙筒を投げ飛ばし、煙を発生させて自分の身を包み込んだ。

 だが、仮面の男は何発もショットガンを放つも、当たった感触は感じなかった。そして煙からボードに乗ったシーカーが目の前から現れた。シーカーは仮面の男の真横を横切り、空高く飛んで一気に速度を上げて降下した、


「ちっ!!」

「おらぁぁぁ!!」


 そしてシーカーの反撃で、そのまま上から体を捻らせながら回転し、その力で仮面の男に刀を振った。

 仮面の男も剣で応戦し、再び睨み合い状態の鍔迫り合いに戻った。


「中々やるな……さっきの男よりは……」

「こう見えても最初期からやってるんでね‼︎俗に言う古参プレイヤーってやつかな‼︎」

「ふっ……なら俺も、古参プレイヤーだ」

「古参なのに、チートに頼る気か。情けない奴め!!」

「……何とでも言うが良いさ」


 お互いにニヤリと笑い、お互いに剣を弾いて一定の距離を取った。

 すると仮面の男は剣をしまい、メサを操作し始めた。


「もっと楽しみたいが、ここに長居する気は無い。お前の相手はこいつがやってくれる。これに勝ったらここから出させてやる」

「……?何だ?」


 フィールド全体のビルが大きく揺れ始め、窓が一斉に割れた。それと同時に大きな地鳴りが鳴り響いた。

 そして上空の青空に人が小さなヒビが生じていた。ヒビは徐々に広がって生き、直径10m近くの大きなヒビになった。


「……あれは……」


 シーカーはヒビに気づき、上を見上げる。すると、ヒビはガラスのように割れ、黒い穴が開いた。その中から、巨大な何がこちらを覗いていた。


「……まさかモンスター⁉︎」


 すると穴からくねくねと体を捻らせながら、人を1人簡単に飲み込めるほど、巨大な赤いワームが大きく口を開けて出て来た。


「あれは……トレーズ・デスワーム⁉︎虹の砂漠に出てくる討伐モンスターがなぜ……⁉︎」


 ー紹介ー

 極魔蟲トレーズ・デスワーム

 虹の砂漠 討伐難易度☆4 HP80000

 体長20m〜30m。地中から現れる赤い巨大ワーム。地中にいる時は地図に反応は出ず、地上に出る時は大きな地鳴りが発生する。その大きな口は人1人を軽く飲みるほど。それ以外にも、2m程のミニワームを尻尾から何十匹も生み出し、ワームの脳内指示で拡散しながら四方から敵を囲み捕食する。大きな音が苦手である。


「……さぁ……蝕むんだデスワームよ」

「あんなデカかったか。デスワームってよぉ」


 今まで見たデスワームの倍近くある巨大デスワームが上空に現れ、驚くシーカー。怖気付くかと思われたが、シーカーはニヤリと笑い、刀を握りしめてデスワームに突きつけた。

 一人では未だ倒した事のない未知数なレベルのデスワーム。そんな相手に挑戦出来ることに喜びを感じていた。


「これを倒せば出られるんだろ。なら、やるしかねぇな‼︎」

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