第一章 刻印発動編

第1話 果てしない探求者!! その名は"シーカー"!!

 

 ゲーム発売から半年後──


 ──ピュアーズ草原──


 大草原が広がるフィールド。小さな小鳥が飛び交う中、巨大な足音が繰り返し鳴り響いていた。その度に草木は揺れ、近くにある川も激しく揺れていた。

 その正体はドラゴンであり、10mを優に越す、超巨大な四足歩行のドラゴンの名前はガイアプラトーン。


 ー草源龍ガイアプラトーンー

 ピュアース草原、討伐難易度☆5 HP120000

 全長50mの長巨大龍。1万年以上生きたと言われる大地を歩く亀のような四足歩行の伝説のドラゴン。背中は亀の甲羅のように硬く、巨大樹の森が生えている。

 動くのはとても遅く、おっとりとした顔をしている。攻撃自体はしてこないが、背中に生えている巨大樹からは猛毒の鱗粉が放たれており、プレイヤーにじわじわとダメージを与えていく。戦うときは毒を打ち消す解毒薬必須。弱点は巨大樹であるが、その鱗粉がプレイヤーを苦しめる為、中々近く事が出来ないのだ。

 現在2月頃、最高難易度の討伐モンスター。


 そんな超巨大なドラゴンに勝負を挑む戦士が二人もいた。


『毒消し薬はまだ持っているかシーカー』

「あぁ、また50個近くある。回復薬もまだまだあるから、大丈夫だ!Syo、お前こそ大丈夫かよ」

『まだまだ大丈夫だって俺も』


 木の陰に隠れながら連絡を取り合う紫色で身を包んだ忍者のような軽装な男──そのプレイヤーの名はシーカー。その鋭く尖った目でガイアプラトーンを見つめ、一丁前に仕上げられている刀を握りしめて、ガイアプラトーンの行動を確認していた。

 そして連絡を取り合っている相手はSyo。戦国武将のような堅い兜と鎧を身につけて十字を描いている大きな槍を持っている。顔も髭面の渋い顔をしている。


『おいシーカー!!俺がガイアプラトーンの引きつける!!お前は後方から巨大樹を攻撃しろ!!』

「分かった!!時間稼ぎ頼むぜ!」

『残り時間はないから、あまり時間稼ぎは出来ないがな』


 お互いに連絡を取り合うとSyoはすぐに動き、ガイアプラトーンに目掛けて走り始めた。シーカーも目的の為にガイアプラトーンから姿を消して、背後に回ろうと動いた。

 Syoはガイアプラトーンの前に立つと大きく身体を動かして、ガイアプラトーンの目線を釘付けにした。


「おい、ガイアプラトーン!!こっちだ!!」


 Syoが大声を上げて、自分の元へと誘導させた。Syoの声に反応し、大きく身体を動かして歩き始めた。


「よし、この隙に行け!!その刀で切り裂け!!」


 Syoの方へと意識を向けた隙にシーカーは、ガイアプラトーンの背後へと動いた。そして外皮が薄いとされている足元へと到着した。


「前回よりも強化してレベルが5も上がったこの刀で貴様を切り裂いてやらぁ!!」


 自信満々に刀を握りしめて、勢いよく足元に斬りつけた。

 だが、薄いとされていた皮膚は本人らの予想以上に硬く、傷一つ付けられず刀は弾かれて、更にシーカーの手が激しく痺れていた。


「いてててて……くっ、やはりレベル5だけ上がっても、斬るのは無理があるか……」


 強化した刀に傷が入り、全くダメージ与えられる気配がない。更に長時間ガイアプラトーンの元にいると、鱗粉で体力が奪われ、動きも鈍くなる。だから、速攻で勝負を決めないと行けないのだ。


「これじゃあ前と一緒じゃないか。何か策が……あっ!!」


 何か策を閃いたシーカーはガイアプラトーンから距離を取り、刀を拾い上げてSyoと連絡を取り合った。


「俺に良い案がある!」

『何だ?』

「それは──」


 その案を聞いたSyoは不安な顔になり、もう一度聞き返した。


『それ、マジでやる気か?ガイアプラトーンに長時間いるのは危険だぞ。そんなギリギリな戦法、本当にやるのか?』

「やるしかねぇだろ!賭けに出る!!」


 その自信ありきな声にSyoも呆れながらもシーカーの意思に覚悟を決めた。


『また、それか……なら、やってみろ!出来る限り援護してやる!!』

「頼むぜ!!」


 シーカーはすぐに行動を起こし、ガイアプラトーンの背中に飛び乗り、真っ直ぐと森を抜けて首元へと走っていく。

 もちろん、ガイアプラトーンは背中に乗っている事に気づくと、背中に生えている巨大樹から大量の鱗粉を放ち始めた。


「くっ……毒消しをしたいところだが、今はなしだ!!」


 毒消しを使わないと体力は徐々に減っていく。だが、シーカーは使う気はさらさら無く、体力はどんどん減っていく。だが、そのニヤけている顔からは何か作戦があるようだ。

 そして体力が減り、もはや風前の灯。このまま回復しなければゲームオーバーになる。だがその時、シーカーはニヤリと高笑いし、大声で叫んだ。


「この時を待っていた!!スキル発動、"逆境勝負"!!」


 その瞬間、身体の中から急激にパワーが湧き、拳を握りしめる力を何倍にも膨れ上がった。

 そしてそのままの勢いで、ガイアプラトーンの背中を駆け上がり、空高くジャンプした。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!くたばれぇぇぇ!!」


 シーカーは力一杯刀を握りしめ、ガイアプラトーンの首元に突き刺した。硬い皮に突き刺さった場所からは緑色の血が噴き出て、シーカーの身体に付着するも気にする様子を見せずに更に深く刺そうとしていた。

 だが、ガイアプラトーンは痛みに悶えて、振り払おうと激しく首を張り始めた。シーカーは刀にしがみ付いて必死に掴んでいた。


「シーカー!!」

「なんのぉぉぉ!!」


 首を振り続けて振り落とそうとするガイアプラトーン。Syoはその様子を見て、片手で槍を投げる体勢を取った。そして狙いを定めて、投げた。


「当たれ!!」


 投げた槍は真っ直ぐと飛び上がり、見事にガイアプラトーンの片目に突き刺さった。

 その瞬間にガイアプラトーンは悲痛な鳴き声を上げながら一瞬だけ膠着した。


「今だ!!」

「はぁぁぁ!!」


 シーカーはその隙を逃す事なくガイアプラトーンの首に足を釘のように置き、更に奥深く刺した。そして片手で刀を掴んだまま、ポケットからとあるアイテムを取り出した。

 そして息を整えて刀をガイアプラトーンから抜き取り、その刺した場所へとそのアイテムをお構いなく打ち込み、そのままシーカーは振り飛ばされた。

 シーカーは上手く体勢を整えて地面に着地して、すぐさまSyoがいる木の陰に隠れた。


「手応えはあるか?」

「さぁな。後3、2、1──」


 シーカーが数字を数え終えた瞬間、刺した箇所から光だして大爆発を起こした。

 二人は爆風に耐えながら、砂煙が舞い散るのを待った。爆風が消え去り、二人はガイアプラトーンに注目した。

 ガイアプラトーンは目の前を歩いており、二人は驚愕した。だが、足をふらふらとおぼつかない足取りで、ゆっくりと体勢を崩して大地を激しく揺らして倒れた。


「うおっ!?倒した!?」

「……みたいだな」


 Syoはガイアプラトーンを槍で突っつきながら動かないか確かめた。そして動かない事を確信すると、二人はお互いの顔を見合い、手を合わせて大いに喜びあった。


「やったな悠斗!!ナイスプレイ!!」

「おうよ!新記録達成だと思うぜ将呉!」

「時間がないからログアウトしようぜ」

「OK」


 二人は拳を何度もぶつけ合いながら笑い合った。そして二人はすぐにログアウトした。


 *


 シーカーの中の人でありまん丸な目をしたちょっと小柄な少年久津間悠斗くつまゆうとと、Syoの中の人であり爽やかなメガネ青年浅見将呉あさみしょうごがAlterLinkを外すとそこは教室の黒板の前であり、そこには他の男子クラスメイトが数人が喜びを表しながら二人を待っていた。

 悠斗の顔は少し汗が流れており、相当疲れているようだ。そして二人はすぐにクラスメイトに聞く。


「ぷはぁ〜!!どうだ、今回のタイムは!?」

「新記録達成か?」


 タイムが気になってしょうがない二人が聞くとクラスメイト達はタイマーを二人の前に突きつけてきた。


「何と9分47秒だ!!新記録達成だ!!」

「やったぁぁぁ!!休み時間10分以内にクリアしたぁぁぁ!!」

「よし、記録更新だ!」


 そう言ってクラスメイトは黒板の前にあるペンを取り、黒板に書き始めた。チョークではないが、黒板に当てて書くと白いチョークで書いたようにタイムがデカデカ描かれていく。"9分47秒!!"と

 10分切るのは相当珍しい事であり、よほどの課金者で熟練のプレイヤークラスでないと10分切るのは難しいが課金していない悠斗達が倒した事は相当すごい事なのだ。


「これは学校新記録では?10分切るのは初めてだぞ」

「お前らのコンビネーション最高だぜ!」


 他の生徒が見ている中、悠斗達は友達に褒められて、頬をか嬉しそうに照れていた。


「いやぁ、そ、そうかな」

「まっ、今は喜ぼうぜ悠斗!今回の件でまた色々と攻略法が分かったから、タイム短縮に繋げようぜ」

「うん、そうだな!!」

「それに今日は新イベントだ。まだまだ俺らは強くなれるぞ!」

「おう!!」


 そして、友達を含めて黒板の前で声を上げて喜ぶ悠斗達。

 すると、突然誰か黒板の消去ボタンを押して黒板に書かれたタイムが消え去り、綺麗な黒板へと戻って行った。


「ん?誰だ、消したの?」

「何をしているんだ、お前ら」

「あ?」


 悠斗や仲間達が自分達には聞き覚えが十分にある声に背筋が青くなった。一斉に教室入り口を見つめると、そこには無言で悠斗達を睨み付けている先生であった。怒りを抑えているが、表情はどう見たって怒っている顔であり、悠斗は恐る恐る教室の時計を見ると、授業が始まっていたのだ。

 みんな喜びのあまり、チャイムの音に気付いていなかったのだ。


「あ……先生、おはようございます……」

「お前ら授業が始まっているの、まだゲームしているのか!!今日は放課後残って掃除でもしてろぉぉぉ!!!」

「いやぁぁぁ!!」


 先生の激しい怒声と悠斗は悲痛な叫び声が学校中に響き渡った。

 この世界の刻印戦記は"alter frontier"と呼ばれる新時代型のVRゲームが盛んな世界で、刻印を持つ者達がゲーム内で起きる様々な事件に巻き込まれる世界である。

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