第25話



「この五人は俺の直属の部下、つまりは幹部になる。これからはレイ、あんたと契約したい」


「⋯⋯おいおい、俺は一人が良いんだ。お守りをする必要性を感じないんだが?」


「何もボスになれって言ってるんじゃない、俺達と契約して欲しいって言ってるだけだ。これからこの大陸中で嵐が巻き起こる、俺は部下を守るために強くて大きい傘の下に入る必要があるんだ⋯⋯頼む」



 そう言ってシュヴァルツと幹部五人は地面に片膝をつき、この世界での忠誠のポーズを取った。



「分かったから立ってくれ、堅苦しくてしょうがねえ!⋯⋯契約の件については分かった、ただお前達をどうするか今考えるから少し時間をくれ」




 たっぷり10分程考えたレイはシュヴァルツ達に指示を飛ばす、流石の部下五人も息切れは収まっていた。



「まず、お前達の本拠地だが禁忌の森に作ってもらう」


「⋯⋯は!?あの禁忌の森に、本拠地??正気かレイ!」



 シュヴァルツの様子を見て驚くのも無理は無いと思い、マジックバッグの中から将棋の駒を一つ取り出すとシュヴァルツへ渡した。



「禁忌の森は新しい主が出来たら落ち着いたんだ、その主にこの駒を見せて『レイからの紹介で来た』と言えば大丈夫だ」


「おいおい、レイとその主って奴は繋がってたのかよ!!⋯⋯あははは!勢いに任せてレイについたがこれは大当たりだな!いや、待てよ。もしかしてレイが禁忌の森を落ち着かせる為に頼んだのか?」


「⋯⋯凄いな、なんで分かった?」



 これには流石のレイも驚いた。禁忌の森を治める主と通じているという情報だけで、自分がクルトに頼んだのを言い当てたのだ。シュヴァルツはかなりの切れ者であった。



「半分は勘だったけどな⋯⋯前にクズな貴族令息を殺せって依頼した時、国のためなら掃除をした方がいいって俺達に言ったろ? だからレイは禁忌の森を落ち着かせ人同士を争わせようとしたんだと予想した」


(理由まで言い当てられるとはな⋯⋯これはとんだ掘り出し物をしたのかもな、これはある程度情報を先出ししても問題なさそうだな)


「因みに主ってのは人間じゃねえ、悪魔だ」


「⋯⋯マジ?」



 ただでさえ情報過多なのに簡単に爆弾を一つ追加するレイに、思わず聞いてしまったシュヴァルツだがレイはいい笑顔で頷くと、驚愕の顔から真顔になった。シュヴァルツは諦めの境地に入ったみたいだ。



「名前はクルト、ダンジョンマスターでもあるからダンジョン内に拠点を作れ。クルトにはレイからそう指示を受けたって言えばやってくれる」


「⋯⋯そんな気前のいい悪魔がいるのかよ」


「⋯⋯それがいるんだよな〜」



 レイはすっかり慣れてしまっていたが、クルトは悪魔である。感じの良いお兄ちゃんみたいな性格な為すっかり忘れていた、見た目も人間そっくりなのも理由の一つだろう。



「その後はこの大陸の国々に拠点を作るんだ、大きくする必要はない。大陸中の情報を素早く知る体制を整えて欲しい」


「⋯⋯あははは!どんどん話がでかくなっていくな、こんなに楽しみな仕事は暗殺者になってから初めてだぜ」


「禁忌の森が静かになってどの国も警戒が厳しくなってるだろう、特に裏の人間に対してはな⋯⋯ただ、お前達ならできるだろ?」


「はっ、舐めてもらっちゃ困るなレイ。ウチらは手練しかいねえよ!!」



 シュヴァルツも五人もいい表情で頷きあっていた、とても大きくとても強い傘を得ることが出来て仕事も大変ながらやり甲斐は半端では無い。 良い主を持てたと心から思っていた。



「ただ帝国へ拠点を作る時は気をつけろ、一番の手練を回らした方がいい。お前らなら噂は聞いてると思うが、今の皇帝はバケモンだ」


「分かった、充分に気をつけよう」


「じゃあはいこれ。今はとりあえずこれしかないが、纏まった金が入り次第なるべく金は渡すようにする。ただお前らもあらゆる手段を使って金を稼いでくれ」



 レイはマジックバッグの中から50万リルをポンっと渡した、受け取ったシュヴァルツは呆然としているがレイはコンタリアへ向けて歩き出す。



「あー、コンタリアに拠点を作る奴は俺と連絡を取れるようにしたい。拠点を作ったら俺が泊まってる宿に合図をくれ、そうだな⋯⋯『コンタリア王国万歳』って書いた紙を部屋に置いとけ」


「ぷっ!冗談きついぜレイ⋯⋯え、マジでそれを合図にするのか?はぁ〜分かった、拠点を作ったら連絡する」



 悪い冗談だと思って確認したシュヴァルツだが、歩みを止めないレイを見て本気だと悟り了承した。それを聞いてレイは手をヒラヒラさせる、自分達の主はこれ以上ないほど頼れるが頭のネジが外れていると思った暗殺者達⋯⋯。




 ◆◆◆




 シュヴァルツ達と別れてから再び走りとは思えない速さでコンタリア王国へ向けて出発したレイ、数日かけて国境付近まで来たのだが⋯⋯いつもは国境など無視して走り去るのだが今回はそうはいかなかった。



(え〜?警備厳重過ぎじゃね??⋯⋯しゃーない、並ぶか)


「身分を証明出来るものを」


「はいこれ、冒険者カード。何故こんなに警備が厳重か聞いていいか?」


「数日前にスークプトの街が半壊する事件があってな、その関係でこっち方面から来た人達は厳重に取り締まっているんだ」




(⋯⋯⋯⋯俺のせいだったか〜)

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