第23話



「サシャ、私の頼みを聞いてくれてありがとう。レイ君も腰をかけてくれ」


「じゃあ失礼します。初めましてガンダルフ様、紹介されたレイです」



 いつものレイと全然違う、人によって態度を変えるような人じゃない。それを知っているサシャは丁寧な言葉遣いをしているレイに恐怖した。



「⋯⋯聞いていた人柄と違うようだね、それよりも。今回はギルドマスターが迷惑をかけたようだね、申し訳無かった」


「私は全然気にしてませんので、ドスカータ公爵様も謝らないでください」


「それがそういう訳にもいかないのでね、今回の一件はただの街で起きたことでは無い。この国の首都で起きてしまった、きちんと謝罪しないと国の沽券に関わる」



 レイはガンダルフの言葉を聞いて貼り付けていた笑みをスっと消した。



(つまり俺は国のメンツの為にわざわざここまで連れてこられ謝罪されている、と⋯⋯⋯くっそ舐められてんな〜〜)


「⋯⋯そうですか、では確かに謝罪は受け取りました。もう失礼してもよろしいでしょうか?」


「あぁ、重ねて今回は本当に申し訳なかった。⋯⋯もう暫くはこの国にいるのかい?」



 サシャは地獄にいる気分だった、レイの丁寧な応対から始まり笑みを消した所、レイが何に対して笑みを消したのか分かるから余計に。 そしてここからの会話次第では一気に険悪な空気になるだろうと⋯⋯。





「いいえ、コンタリア王国に向かいます」


「⋯⋯そうか、冒険者は自由な職業だと聞いているからね」



 国の中でも王族に次ぐ権威を持つ公爵家の人間に対して、堂々とこれから敵国になる国へ行くと言えるレイにガンダルフはある意味感心していた。



「はい、私もそこに魅力を感じて冒険者になりましたので」


「ははははっ、何だか私も冒険者になりたくなってきたよ⋯⋯是非またこの国へ来てくれ、いつでも歓迎するよ」


「申し訳ないですが、私がこの国スークプトへ立ち寄る事は一切ないでしょう」



 シーン。正に部屋中の時が止まったかの如く静まり返った、レイは満面の笑みを浮かべているがサシャは天を仰いでしまった。



「⋯⋯今なんと言ったのかな?最近耳が悪くてね」


「きっとご高齢なのが原因でしょう、仕事に支障が出ると思いますので早めに後継者に当主の座をお譲りすることをオススメ致します。⋯⋯それでもう一度言いますが、私は二度とスークプトへ立ち寄ることはありません」


「君は私に喧嘩を売っているのかい?後ろにいる二人はドスカータ公爵家の騎士達でね、かなり腕がたつのだが⋯⋯⋯まだ死にたくはないだろう?」



 ガンダルフの言葉を聞き護衛二人は一歩前に出た、鞘には手が添えられている。



「ご自身でお耳が悪いと仰ったではないですか、私は意見を申したまでです。あぁ、貴族の方々は言葉遊びがお好きだと聞いた事がありますが、私は額面通りに言葉を受け取り思っている事をそのまま言葉に出すように心がけていますので⋯⋯⋯それから剣を抜いたら私と敵対する事になりますが、本当によろしいのですね?」


「⋯⋯お前達、我が公爵家を侮辱したこの冒険者を殺せ」


「お待ちください!!」



 ガンダルフの合図で護衛二人が踏み出そうとした瞬間、サシャがレイの前に立ち大声を上げた。



「⋯⋯サシャ、君もドスカータ家と敵対するということでいいのかい?」


「⋯⋯⋯レイと敵対するのは得策ではありません、どうかお怒りを収めて頂けませんか?」


「あー、悪いがサシャ。その二人もう抜いちまってるから遅いぞ、残念だったな」


「そんな⋯⋯」



 護衛二人はサシャと同じくらいの手練だった、その為一瞬で剣を抜いた。いや、抜いてしまった⋯⋯。藁にもすがる思いでレイを見つめるサシャだがレイは笑みを浮かべたまま見つめ返すのみ、そんな顔を見てサシャも諦めた。



「なっ、消え─────」


「ん?お前達どうし、ひ、ひぃぃ!!」


「あーあ、部屋が血だらけになっちまった〜」



 レイは一瞬で護衛二人の後ろに回り込み首をはね飛ばした、切断面から血しぶきがあがり部屋の床を赤に染めていく。



「サシャ、この件はお前にも責任あるよな?ちょっと付き合えよ」


「は、はい⋯⋯」



 またもや一瞬でソファへ移動していたレイ、サシャに脅迫に等しい提案をするとクルっとガンダルフへ体の向きを変えた。もうそれだけでガンダルフからしたら恐怖でしかない、もはや公爵家のメンツなど遥か彼方へ消え去っている。



「では、ドスカータ公爵家は私と敵対したということで。失礼します」



 終始笑顔のまま颯爽と部屋を出た。

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