第21話


 今更だがこの世界にも四季は存在する、暦も前世とほぼ同じでレイは困ることなく生活出来ていた。



(もうすぐ冬か〜、冒険者は依頼が減って暇になるって話だったけど⋯⋯俺は何して冬を乗り切るか)



 レイを殺すために暗殺者を雇った貴族令息は殺された、その報告を受けてから既に一ヶ月が経っていた。チェバンスタに二ヶ月滞在していることになる、レイにしてはとても長く同じ街に留まっていた。


 簡単な依頼をこなしつつ各国の情報を逐一集めていた、というのも禁忌の森が本格的に落ち着き国が本気で調べ始めた為だ。 どの国がどう動くのかをレイは情報屋を使って調べさせていた。



(いや〜、まさか帝国がエタゾークと相互不可侵を結ぶとはな⋯⋯同盟関係にあるウォスカトスも認めているだろうし、上と下から挟まれたジェズアルドはたまったもんじゃないわな。⋯⋯⋯それにしても帝国の動きが早すぎる、俺は情報与えてないのにこの手際の良さ、皇帝はかなりの傑物だな)



 ギルドに併設されている酒場で食事をしていると、一組の冒険者パーティがレイに近づいてきた。



「よお、お前レイだな? 少しツラ貸せや」


「OK、食べ終わったらそっち行くから待っててくれ」



 ガラの悪い五人のチンピラに囲まれてもいつもと変わらないレイ、それを見て青筋を立てるチンピラ達。



「は?てめえの都合なんて知るかよ!お前バカか!?」


「そうか、なら教えてやるよ。俺は今な?ここギルドの酒場で飯を食べてるんだ、ここまで分かるか? 俺は、ギルドで、飯を、食べてる。なのにお前らチンピラがいきなり絡んできた、どう考えても俺の都合が優先されると思わねえか?」



 相手を徹底的に煽る&バカにするレイの言葉にギルド内は一瞬静寂するも、すぐ爆笑に包まれる。 カウンターからさり気なく見ていたサシャは思わずため息を吐いた。



「お前、殺すぞ?」


「いやいや、殺すなんて生ぬるいっしょ。負けた方は一生奴隷として生きるってのはどうだ? 見たとこランクは星三だろ?俺は素手で相手してやるよ、これでどうだ?」


「⋯⋯分かった、付いてこい!!」



 ギルド内は大盛り上がり。レイ達の後に続いて続々と訓練場に人が入っていく、レイの前では 『正気か!?負けたら奴隷だぞ!!』とか 『あのガキ調子に乗りやがって』等と吠えているが、レイは玩具を手に入れた子供のような顔をしてあとをついて来ている。



 見物人はもちろんどちらに賭けるか話し合っている、ただ高ランクの冒険者達がこぞってレイに賭けているのを見て大体は合わせてレイに賭けていた。 少数は大穴を狙ったバカしかいない⋯⋯。今回レイは自分に賭けていなかった、少し前に暗殺者達と色々あったのを噂になっててもおかしくないと考え賭けていない、かなり強かな主人公である。





「⋯⋯お互いに死に繋がる攻撃は禁止とします、それでは─────始め!!」



 合図と同時に五人が割といい連携で襲いかかる、レイはポケットに手を突っ込んだまま華麗に攻撃をいなしながら顔をニヤつかせている。



「てめぇ、あんま舐めんじゃねー!!」


「いや顔が必死だから面白くて⋯なっ!」


「ほげっ」


「ほらほらー、根性見せろよ〜〜」


「うぎゃっ」 「ブッフォーー」



 今回は相手が一発で終わらないようにワザと手加減して遊ぶつもりのレイ、ギャラリーも意識して戦えるようになったのは成長()出来ている。



「おいおいもう終わりか?⋯⋯まだ立てんだろーが、お客さんがいっぱい見てるぞ??」


「⋯⋯くっそが、こっちは魔法を使っても文句ねーよな?」



 レイの後ろに倒れていたチンピラが魔法を打ってきたが、レイは飛躍し魔法を躱した。対角線上にいたチンピラに魔法が当たる。



「あっっち!!おいどこ打ってんだよ!」


「よし、全員立ったな。じゃあ再開な〜」


「ちょ、ちょっとまぐぇーー!!」

「おい待てってうきょば!!!」

「どこまでもナメた真似をむべっ!!」


「はい、カウント始めるぞ〜。1、2、⋯⋯」



 一方的に弄んだ挙句、勝手に数字を数え始めるレイ。この世界に格闘技など存在しないから、幾つまでに立てばいいのか分かるわけもない。もちろんレイは説明してやる気もない。



 この弄んではカウントしてを10分も繰り返している、ダメージを与えずただ地面に転ばすだけ。チンピラ達は立とうと思えば簡単に立てる、ただ心がすり減ってしょうがない。自尊心が音を立てて崩れていくのを感じる程に⋯⋯観客も最初は盛り上がっていたが、レイの余りな性格の悪さにドン引いて言葉が出なくなっていたその時⋯⋯。



「そこまでにしてもらいましょうか」



 レイが再開しようとチンピラに近づいた時、短刀が投擲される。そこには如何にも頭の良さそうで、眼鏡をかけたインテリイケメンが立っていた。


「⋯⋯ギルドマスターだ」



 誰かの呟きが訓練場に響いた。

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