第12話


 ベックの目の前にはストレス発散でもしたのだろうか?スッキリした顔をしたレイと、数時間前に会ったばかりなのに疲労困憊の部下二人。



「レイさん⋯⋯後ろで倒れている部下は何故そのような状態に?」


「ん、俺がデタラメなダンジョン攻略したから付いてくるので精一杯だったんだよ。その辺の報告は後で聞いといてくれ! とりあえず規模は中型ダンジョンだったよ、運が良ければ50階層まであるかもな」


「ダンジョンの法則知らなかったくせに」



 レイが胸を張って自慢するようにダンジョンの規模を説明すると、二人は思わず声を揃えて愚痴を零した。



「なっ、お前ら!それは言わねえ約束だろ!?」


「そんな約束してない!休憩も取らずにどんどん進みやがって!!」


「それは謝るけど、ここでは格好付けさせろよ!!」


「⋯⋯本当に我々の立場を知っても態度を変えないのですね」



 レイと部下二人が仲睦まじく(?)言い争いをしている様子を見て、ベックは驚いていた。報告では聞いていたが俄には信じ難い事だった、ベック達のような裏の人間に対して賛成派だったというのは。



「あーマジで尾行の件とか気にしてないから安心しろって⋯⋯で、ベックさんよ、俺は最高級の寿司が食いてえんだがオススメの店教えてくれ!」


「⋯⋯ふっ、そのくらい容易い御用ですよ。ウォスカトス随一のお店を紹介しましょう、私が奢りますのでご一緒にいかかです?」


「お、マジ?じゃあ今から⋯⋯いや、二人からの報告も聞きたいか、それじゃあ明日の昼頃俺が泊まってる宿に来てくれよ」


「それは助かります、では明日お迎えにあがります」



 レイが街へ帰ったあと、ベックは待ちきれずにその場で二人からダンジョン内での報告を聞いていた。



(なるほど、接近戦では既にトップクラスでしたか⋯⋯どの国より先にレイさんの実力を知れたのは大きなアドバンテージですね)


「出来れば誼を通じたい所ですが⋯⋯」


「私が彼とダンジョン同行して感じたことですが、上の立場⋯⋯貴族や王族等には会いたくない印象を受けました」


「やはりそうですか⋯⋯暫くは私が窓口になる必要があるでしょう。二人はゆっくり体を休めてください、私はボスへの報告がありますので戻ります」




 ◆◆◆




 レイの目の前には前世で舌を唸らせた伝説の料理が並んでいる。 ベックに連れてきてもらったお店は決して大きくないが、こだわりある老舗料亭といった雰囲気だ。


 切り身は魔物の肉を使っている、しかも強ければ強いほど美味いと言われている魔物の肉。レイはしっかり異世界の寿司を堪能した。



「⋯⋯⋯⋯ふぅーー、美味かった」


「それは何よりです」



 レイは寿司を食べ終わったあとも数分口の中の余韻を楽しんでいた、普段のレイからは想像もつかない落ち着いた様子にベックは内心驚きつつも、静かに見守っていた。



「さて、本題に入りましょう。レイさんには是非上の人にあって欲しいのですが⋯⋯やはり難しいですか」


「あぁ、俺は『まだ』注目を集めたくないからな、もうしばらく待ってくれ⋯⋯代わりと言ってはあれだがとっておきの情報を渡す」


「レイさんのとっておきですか、少々お待ちください⋯⋯これで防音対策は大丈夫です」


「それはもしかして、マジックアイテムか?」



 この世界にも定番のマジックアイテムは存在する、様々な用途の道具が日々生み出され生活をより快適にしている。 新技術の開発などは国同士が競っていたりとか。レイは初めて見るマジックアイテムに興奮したが、ベックが早く聞きたそうな顔をしてるので我慢した。



「じゃあさくっと言うぞ⋯⋯もう少ししたら禁忌の森が落ち着く」


「っ!?!?⋯⋯⋯」


「ベックならこれだけ言えば何が起こるかは分かるだろ? 因みにまだどこの国も知らない」


「⋯⋯それをなぜレイさんが知っているのです? 確証はありますか?」



 冷静沈着が持ち味のベックでさえ取り乱してしまう情報、禁忌の森が落ち着けば確実に領土を巡って戦争が怒る。皮肉ではあるが国同士の平和は、禁忌の森によって守られていたのだ。



「悪いが何故俺が知ってるか言えないし証拠は特にない、ただ近い内に分かるはずだ。この大陸に賢王がどれくらいいるか知らんが、既に予兆を掴んでる国はあるかもな」


「その情報が事実だったとしたら大変な事態になりますね⋯⋯⋯⋯ふぅーーー、上の人達はともかく私はレイさんを信じますよ」


「へ〜ぇ、なんか意外だな。もっと慎重になるかと思ってたのに」


「レイさんがご自身と引き換えに出した情報ですからね、私の勘ですがレイさんにはそれだけの価値があると思っていますので」


(ベックが諜報機関の中でどれくらいの位置にいるか分からんけど、やっぱ鋭いっつーか、やりずれぇ相手だな)



 心中ではベックに悪態を垂れつつも、それはつまり賞賛とも取れる言葉。レイもまたベックの事を認めていた。

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