第10話

『皆さんいますね? 彼の事を調べてください、あれは只者ではありませんので気取られないように』


(ふ〜ん、なるほどな。 念の為に《聴力強化》使ったけど、まさか諜報機関だったとはな⋯⋯⋯こうなるとこの街のギルマスとかも怪しくなるけど、まぁ大人しくしてれば問題ないでしょ)



 ベックに会った時、護衛として雇った冒険者は逃げ出したと言っていたが、周囲に人の気配は無かった。 レイ自身も怪しんでいたとかは無く、純粋に何か事情があるのだろうと思っていた。 それが諜報機関だとは流石に予想外だった。


 むしろ防壁の無い首都なんて馬鹿げた国でも、裏の人間を使い見えない壁を何重にも作っていることになる。 ウォスカトスの王は優秀の部類に入るのではないかと思った。



「お、ここがギルドか。⋯⋯⋯おぉ、さすが首都の冒険者ギルド、人が多いな」



 冒険者登録をした街のギルドと比べ三倍は建物がデカい、中に入れば昼前という中途半端な時間にも関わらず、人は割と沢山居た。 首都ともなれば外からも大勢の冒険者がやってくる、そんな中の一人でしかないレイも目立つことは無かった。 強いて挙げるとすればイケメンが来たな〜くらいである。



「別の街から来たんだが、手続きを頼む⋯⋯これカードね」


「はい、お預かりします!⋯⋯レイさんですね。ウォスカトスの首都ベルカーサへようこそ!」


「ありがとな! ところでこの街はやっぱり海の魔物が多いのか?」


「そうですね〜、街道にも出ないことは無いんですけど、ベルカーサでは海の魔物討伐の依頼が多いですね!⋯⋯当ギルドとしては治安の観点から、そっちの依頼も受けて欲しい気持ちはありますけどね」


「あははは、なるべく街道付近の依頼も受けるようにするよ。水中で戦ったこともないし」


「それは助かります!!」


(確かに水中での戦闘とか経験ないけど、魔術はある程度できるし、なんとかなる気もする⋯⋯暫くは魔術も使えるのバレたくないんだよな〜、俺の場合ほぼオリジナルだし)



 色々考えながらも、低身長で元気いっぱいの受付嬢の応対を受けたレイはオススメの宿を聞きギルドを出た。 宿の名前は《精霊のせせらぎ》、どうもこの世界の宿はスケールが大きいようだ。


 とりあえず5日分宿泊する料金を払ったレイは、まだ時間もあるので再びギルドに戻ってきていた。



(確かにほとんどの依頼が海に住む魔物討伐だな⋯⋯てかこの街に来る時街道付近に魔物が全く出てこなかったけど、あれって普通に考えればおかしくね?⋯⋯⋯⋯あ、やっぱり依頼出されてたか。『街周辺の魔物が急激に減っている事への調査求む』ね)



 レイはその依頼書を剥がしてカウンターに向かう、先程の元気な受付嬢はいなかったので別の受付嬢へ声をかける。



「この依頼を受けたい、手続きを頼む」


「⋯⋯この依頼を受けてくださるのですか、ありがとうございます。レイさんのランクは⋯⋯⋯星三でしたか、それなら問題ないと思います。 魔物が急激に減るなど初めてことなので、充分に気をつけてくださいね」


「おう、安全第一ってな。行ってくる」




 ◆◆◆




「⋯⋯はぁ、なんか見覚えのある入口を見つけたんだが。魔物が激減してる原因って絶対これだよな〜」



 レイは街から数キロ離れた森の中でウロウロしていた、そんな中で偶然、本当に偶然見つけてしまった⋯⋯【ダンジョン】を。



(はぁ〜〜、これは面倒なことになってき⋯⋯⋯あ、«おーい、聞こえるかー?»)


「「「っ!!」」」



 レイは自分を尾行している人達に魔力波を飛ばし、脳へ直接声を届けた。 尾行していたのはベックに命じられ、レイの行動を悟られないよう調べていた諜報員。 レイから数百メートルは離れて尾行してた為、まさか気づかれているとは思わなかった諜報員らは動揺を隠せなかった。



«あー、動揺するのは分かるがちょっと来てくれるか⋯⋯その、ダンジョンを見つけたんでな»



 それ以降は何も言わずただ待っていると、向こうも観念したのかレイの前へ姿を現した。



「⋯⋯気づいてたのか?」


「ん?まあな。それよりこれ見てくれよ、どう見てもダンジョンだぜ?」


「あぁ、間違いなくダンジョンの入口だな⋯⋯そうか、急激に魔物が減っていた原因はこれだったか」


「俺もその意見に賛成だ、それで俺はダンジョンの中に入りたいんだが一応お前達に知らせた方がいいと思ってな。ベックへの報告もあるだろ?」


「⋯⋯そこまで知られているのか、悪いがここでお前を消さな「やめとけやめとけ、お前らじゃ勝てねえから」っ!!」



 不穏な雰囲気になりかけた所で、軽く殺気を3人へ飛ばしたレイ。 それだけで優秀な諜報員はレイの言葉が正しいと判断した。



「理解してくれて助かるよ、俺からの提案は俺と一緒に一人ダンジョンに入らないか? どうせ後々ダンジョンの調査するんだろうから、俺と一緒に入れば手間が省けると思うんだが」


「⋯⋯正気か?我々は裏の人間だ、嫌悪感とかないのか?」


「全くない。むしろ俺は賛成派だな。情報ってのは国にとって武器にもなれば防具にもなる、だから別に尾行されてた事も気にしてないから安心しろ」



 諜報員達は揃って目を見開いた。 普通裏の人間は忌み嫌われることが多い、この世界においては特に貴族などの上流階級の人間に嫌悪感を抱かれやすい。 そんな中でもウォスカトスの王はそんな貴族達を説き伏せて、諜報機関を設立させた。

 レイがぶっ飛んでる所があってこういった事に寛容であるのも確かではあるが⋯⋯



「変わったヤツだな」


「よく言われるよ。俺からしたら最初にダンジョンに入りたいって我儘言ってるわけだしな、そっちとしても早く情報を得られるのは大きいんじゃないか? 」


「⋯⋯分かった、ではダンジョンに同行するのは2人にする。私は上へ報告に行くとしよう」



 こうしてレイと諜報員の2人はダンジョンの中へと入っていった。

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