第9話
街を出たレイは、ウォスカトスの首都であり大陸一の港を持つベルカーサへ向かっていた。
(まさかあんなに早く街を出ることになるとは、小さい町ってのは良くも悪くも閉鎖的になるっぽいな。馴染めないままだったし。 そういえばこの世界に来てからまだ醤油を見かけてないけど、あるよな?⋯⋯じゃないと魚介類の味半減するぞ?)
勝手に期待しておいて勝手に不安になりつつも頭を振り思考を飛ばす。そんな間にもベルカーサがどんどん近づいていた。街道を通らずに木々の中を、空気を切り裂くようなスピードで走り続けると、前方に馬車を襲う一団を見つける。
「盗賊だよな、あれ。⋯⋯そう言えばまだ人を殺したこと無かったな〜〜、早い内に経験しといた方が良いよな」
異世界に来た以上、必ず人を殺さなければならない場面は訪れる。レイは神からの頼み事もある為、どうしても避けられない。 覚悟を決めて馬車を襲う盗賊へ突っ込んだ。
「っ!? なんだおめぇ、どっから来た!!」
「お前ら新手だ、やっちまえー!」
「一人しかいねえぞ、全員でかかれー!」
いきなり現れたレイに一瞬驚くも、相手がひとりと解りニヤニヤしながら一斉に襲いかかってきた。
(あ〜武器勝っておけばよかった⋯⋯これじゃ直に感触が伝わってくるじゃねえかよ!!)
一撃で仕留めるために、手に魔力をまとい次々と盗賊達の首を切り飛ばしていく。
「こ、こいつ強い⋯⋯」
「くっそがぁぁぁ!!」
「や、やめ────」
「⋯⋯⋯ちっ、魔物を狩る数倍は気持ちわりーな。ふぅーー、一先ずこれで終わりか⋯⋯⋯⋯」
初めて人を殺め若干の吐き気が襲ってくるも、ここでは何とかこらえた。
「あの、旅の方でしょうか? 助けて頂いてありがとうございました、私はベックと申します」
「旅?⋯⋯あぁ、何も装備つけてないからか。俺は冒険者だよ、命拾いしたな」
馬車から恰幅のいい30代程の男が出てきた。装備を何もつけてないレイを見て旅人と勘違いしたが、すぐに訂正した。
「見た感じどこかの商会とかやってんだろ? 護衛とか雇わなかったのか?」
「⋯⋯私の商会はそこまで大きくはなく、護衛も冒険者を数人雇ったんですが、不利と分かれば一目散に逃げてしまって」
(つまり金に余裕が無くて質の悪い護衛を雇ってしまったと、可哀想に見えるけど自業自得な所あるよな? 普通は護衛はケチらないもんだろ⋯⋯⋯あ、盗賊一人でも生け捕りすりゃアジトの場所聞けたのか。まぁ初めてだししゃーなし)
「ベックさんはベルカーサに行くのか? もしそうなら一緒に行こうぜ」
「えぇ、私はベルカーサに店を置いてますので戻るところだったのですが⋯⋯よろしいのですか? 助けてもらった上に護衛まで」
「俺もベルカーサに行くんだよ、初めてたがら色々教えてくれると助かる」
盗賊に荒らされた馬車をベックが修復してる間に、レイは死体の片付けを行なった、今すぐ魔術で燃やしたかったが人前で見せるのを避けたかったためわざわざ移動した。
「へぇ、やっぱり魚介類が上手いのか」
「それはもう⋯⋯そこがベルカーサの、ウォスカトスの自慢みたいな所ですからね」
(それにしてもウォスカトスとエタゾークが同盟を結んでいたとは、ここ数年前らしいけど。⋯⋯⋯考えられるのは誰かさんが寿司を広めた時に、米はエタゾーク、魚はウォスカトスが盛んなのは当たり前でwin-winの関係になれるからって所だろうな)
ベルカーサやウォスカトスのことを色々聞きながら、久しく食べていない魚介の味に妄想を膨らませていたレイ。 ただ、肝心なことを聞いていない⋯⋯。
「あーベック⋯⋯そのなんだ、ベルカーサには醤油って調味料あるか?」
「?醤油ならもちろんありますよ、魚介を食べるには欠かせませんからね」
「─────よっしゃーーー!!!!」
「うおっ!? いきなりどうされたので?」
「あ、すまん。こっちの事情だ」
◆◆◆
「あ、レイさん見えてきましたよ! あれがウォスカトスの首都ベルカーサです!!」
「うわ、めっちゃ綺麗⋯⋯」
街の奥には巨大な港があり大小様々な船がぎっしり埋まっている、何本ものクレーンが貨物船から荷降ろしをしていて、次々に箱型の倉庫に運び込まれている。 そんな忙しない港とは対照的に、石造りの壁だが屋根は様々な色合いの建物が立ち並んでいる街は、一種の絵画にも見える。
そして何より驚くのが⋯⋯⋯。
「ん?⋯⋯てか防壁なくね??」
「はい、エタゾークと同盟関係になってから一度街の拡張計画が出たのですが、王様が首都まで責められたなら負けなのだから船で逃げてしまえばいいと。それで壁を立て直さずに無くしてしまったと言うわけです」
「⋯⋯なんというか、豪胆な王様なんだな」
「今代の王様になってから間違いなく景気は良くなってますよ、腕は確かなようですね」
(それよりこの磯の香りよ⋯⋯すぅーーー、はぁーー。街に入る前だってのに磯の香りだけで色んな魚介類が頭に浮かぶな)
防壁が無いため街道はもちろん警備兵が出入りをチェックしている、その列に並んでいたレイとベックは手続きを行っていた。
「この方はウォスカトスから来た冒険者のレイさんだ、私が盗賊に襲われていたところを助けて貰ってね」
「⋯⋯冒険者? 装備など何もつけていないが」
「あーはいこれ、カードね」
「確かに冒険者のようだな、疑ってすまなかった。街を移動した場合はギルドでカードを読み込む必要があるから早めに行ってくれ」
「了解! じゃあ、またなベック!!」
「レイさん、重ね重ねありがとうございました。街中で会う機会がありましたら美味しい食事を奢らせてください!」
「おう、その時はたらふく食ってやるからな〜〜!」
レイが冒険者ギルドへ向けて去っていった後⋯⋯
「皆さんいますね? 彼の事を調べてください、あれは只者ではありませんので気取られないように」
「「「御意」」」
首都であるベルカーサが防壁が無くとも安全な理由は、国王の政策で諜報機関が大陸でもトップクラスなこと。 ベックも表の顔は商会の長を務めているが、裏の顔は諜報機関の幹部だった。
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