第6話

「あ、ティアさん!昨日ぶりっす」


「レイさんでしたか、カードをお預かりします。星二へランクアップの読み込みを行いますので」



 とても昨日が初対面とは思えない2人の態度に、昨日にもまして嫉妬と憎悪の視線がレイに突き刺さる。



「ギルドカードね⋯⋯はいこれ。ひとつ聞きたいんだけどさ、ギルドって冒険者同士のトラブルって基本的には無干渉?」


「⋯⋯なるほど、基本的には無干渉ですが無茶はなさらないように」



 ティアは周りをチラッと見て、レイが何故そのような質問をしたのか察した。 ただギルド職員としては性格に難アリでも、戦力が落ちるのは望ましくない。その為オブラートに殺しは厳禁と伝える。



「OK、善処するよ」


「⋯⋯はぁ、本当に善処して下さいね?分かります?善処ですよ!」


 とても善処するような顔をしてなかったレイに、溜息を吐きつつ苦言をするティア。


「うっ、意外と勘が鋭いな⋯⋯」


「勘もなにも顔に思いっきり書いてありますよ」


 そう言いながらレイは依頼が貼られているボードへ向かっていった、するとタイミングを見計らっていたように別の受付嬢がティアの元へ来る。



「ティアさんずるいですよ〜、レイ君と仲良さそうに話しちゃって! 私狙ってたのにな〜〜」


「あなた達が呆けていたから声をかけただけです、仕事ですから」



 巨乳の受付嬢がメロンを揺らしながらティアに文句を垂れる、それだけでギルド内にいた冒険者たちの視線を集めるが、慣れているのか気にした様子は無い。ティアは後輩の文句にも真面目に答えると、巨乳受付嬢は呆れた笑みを見せつつ⋯⋯



「さすが仕事人ですね〜、この感じだと先輩がレイ君の担当になっちゃいそうですし⋯⋯はぁ〜〜あ、絶好の機会逃したーー!!」


「ミレイちゃん、あんな田舎者ほっといて今度俺と飯でも行こうぜ?」


「はいはい、朝から飲んだくれてる人とはご飯なんか行きたくないので。依頼をこなしてくださいね〜」


「ちぇ、つれえな」



 会話に割って入ってきたモブをミレイはデートのお誘いを華麗にかわす。



「ティアさん、この依頼受ける」


「⋯⋯ゴブリンですか、充分に気を付けてくださいね。新人はゴブリンを舐めてかかって怪我をする、というケースが後を絶ちませんからね」



 ミレイの隣では依頼を選んだレイがティアに依頼書を渡していた、依頼はゴブリンの討伐。繁殖力が凄まじいゴブリンは人間の宿敵とも言える、ただ小説とかでよく見るゴブリンと同じように考えていたレイは、ゴブリンに対して危機感が足りていなかった。



「ん、大分危ないみたいだから気を付けるよ。逃げ足は早いし心配無用さ!」


「そうですが「てめぇゴブリンの事も詳しく知らねえのか? こりゃあっという間に死んじまいそうだな!!」⋯⋯」



 会話に割って入ってきたのは、ミレイをナンパして華麗にかわされた冒険者。ミレイの迷惑になっている自覚がないのか、その場に留まってレイ達の会話を聞いていた。



「は?新人なんだから知るわけねえだろ、馬鹿なのか?新人って意味わかるかな、冒険者を始めたばかりの人を言うんだが⋯⋯ちょっと難しいか」



 絡んできたモブに煽りスキル前回で捲し立てるレイ。※煽りスキルは存在しません


 レイの煽りスキルを聞いていた周りの冒険者は爆笑し始めた。昨日の模擬戦を見ていた人も沢山いたため、レイの実力は認めていた。 今回絡んできたモブは、ミレイがレイに好意を持っているのが我慢ならなかった。



(嫉妬しちゃうのは分かるけど、それで俺に突っかかってくるのは違くね? まあこんな単細胞じゃ無理か〜、本能のままに生きてる感じだしな)


「⋯⋯てめぇ、殺すぞ」


「おっと、その剣抜くつもりか? 後に引けなくなるけどいいんだな?」


「────────ちっ、覚えとけよ」



 捨て台詞と共に去っていくモブ、このまま終わると誰もが思っていたが⋯⋯。


「あぁたぶん無理、すぐ忘れると思う」


 ぶっ飛んでる新人レイがここでトドメの一撃を繰り出すと、もう我慢できるはずもなく。


「ぶっ殺す!!⋯⋯⋯ブハッ!」



 殴りかかってきた拳をかわし、腹に膝蹴りをぶち込んだ。 一発でノックアウトしたモブは腹を抱えながら狼狽えている。



「よし、じゃあティアさん依頼行ってきまーす」


「⋯⋯えぇ、気を付けて」



 何事も無かったかのように颯爽と出ていくレイに、呆れた表情でティアが送り出す。




 ◆◆◆




「なるほど、ティアさんが言ってたのはこれか」



 レイの目の前には四体のゴブリンがいるが、前世でよく見たゴブリンとは少し違う。 背丈は150cm程はあり、冒険者からパクったのか短刀や弓、ロングソードを持っていて、完全に連携しようとしていた。



(これは確かに舐めてたわ、道理で新人が怪我するわけだよ⋯⋯もしかしてこの世界の魔物は、俺が知ってるよりも厄介なんだろうな。あの3人に鍛えてもらって良かったぜ)



 レイは《魔力》を体にまとい一気に接近、まずは弓を使うゴブリンを一撃で狩った。 遠距離からチクチク攻撃されるのを嫌ったレイは、真っ先に弓使いを殺した。


「あとは簡単だな⋯⋯おりゃ!⋯⋯ほい!」


 短刀使いを蹴りで殺し、こん棒使いの二体が重なった瞬間に拾ってあった石に魔力を纏わせぶん投げる。石は二体の頭を貫通した。



「よし、じゃあギルドから借りた袋に討伐証明の耳を⋯⋯解体用のナイフとかねえんだけど、テキトーでいっか!」


 手に魔力を纏い手刀で耳を取ると、四体分の耳を袋に入れた。



「⋯⋯しかし身体能力も割と高かったなゴブリン、これはオークとかどんな感じなんだろうな」



 別に戦闘狂では無いレイはここでオークとの戦いを楽しみにするのではなく、割と憂鬱な気持ちになっていた。


(異世界に行く主人公は苦戦してでも強敵と戦いたがるけど、俺は絶対嫌だね。なんなら怪我もしたくないし、それもあって最初にバカほど3人に修行つけてもらったんだけどさ)



 3人とのイカれた修行を思い出しながら街へと戻った。





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この世界にはスキル等は存在しない設定にしてます、また鑑定能力もないので洞察力がものを言う感じです。

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