第4話

 街の大通り。現在そこはざわざわとした声に包まれていた。いや、それ自体はいつものことであるが特におかしいことはない。いつもと違うのはそのざわめきの中心に1人の男────平民の格好をしたイケメンが目をキラキラさせながら、この世界ではちっぽけな街をキョロキョロと見渡している。


 小さい街なら新顔が来ただけで目立つのに、イケメンが田舎者丸出しとあれば、 大いに注目を集める。



「─────やべ、かなり注目されちゃってるな。さっさと冒険者ギルドに行くか⋯⋯どんな感じなんだろうな」



 ギィッとウエスタンな作りの扉を開けると、一斉にレイに視線が集まる。新顔だけあって品定めするような視線と、イケメンが来て恨めしそうな視線がほとんど。受付嬢はイケメンの登場に喜んでいる。



「冒険者登録でしょうか? 手続きはこちらになります」


「ん、おぉ、その通り登録をしに来た」



 レイは集まる視線など気にせず、ギルド内を隅々まで見渡していて入口に立ち止まっていた。それを見兼ねた受付嬢はすかさず声をかける。



「こちらに必要な項目をお書きください。 代筆は必要ですか?」


「いや、自分で書ける。クルト⋯⋯友人に村を出る時に教えてもらったからな」


「⋯⋯⋯⋯はい、レイ様ですね。それでは手続きを済ませる間に説明を行います」



 レイは在り来りなランク設定を予想していたが、G~Sではなく星一から星七がランク設定になるらしい。 もちろんレイは初心者なので星一からになる。


 最下級ランクの星一は、街中で済む依頼を専門に受ける者達専用のランクであり、街の外に出る依頼を受ける場合は最低でも星二からになる。 星二に上がるためには、ギルドの試験官が戦闘可能であると認めれば登録初日にでもランクアップ可能。


 依頼はボードに貼られている依頼用紙を、受付に持ってきて依頼の受領が完了となる。依頼用紙に書かれている報酬金額は、既に街に収める税金やギルド側の手数料といった諸経費を抜いた額を表示しているので、そのまま全額が依頼を受けた者の報酬となる。また規定日数以内に依頼を達成出来ない場合は報酬の3割を違約金として冒険者ギルドに支払わなければいけない。


 尚、依頼については自分のランクの一段階上まで受けることは可能で、下限はない。例えば星二の冒険者が受けられる依頼は星一から三までとなる。基本的には規定回数依頼を成功した後に申請すればランクアップが可能。



 イケメンを前にしても淡々と仕事をこなし、尚且つ丁寧な説明をする受付嬢にレイは感心していた。



(この受付嬢めっちゃ美人だな〜、仕事の出来る女性がタイプの俺にとっちゃストライクど真ん中。良い関係を築きたいもんだぜ)


 この場合の良い関係とはどういった意味を含むのか、分かるのはレイのみ。



「丁寧な説明どーも、つまり星一となると受けられる依頼は大分絞られるわけだな」


「はい、そうなります。ですので「おいおい坊主、登録したてホヤホヤの田舎者がイキんなや」⋯⋯はぁ」


 イケメンと言うだけで我慢ならないのに、ランクが低いと文句を垂れた(そこまででは無い)レイに堪忍袋の緒が切れた数人の冒険者が、レイの後ろを取り囲む。


(つ、遂に俺も異世界テンプレに巻き込まれるのか!? これは面白くなってきた!!⋯⋯⋯⋯あ、そうだ)


「お姉さん、ギルド職員が実力を認めれば即刻星二に上がれるんだよな?」


「え、えぇ。そうですが、まさか⋯⋯」


「おう、このおっさん達をぶっ倒そうと思ってな!」



 数人に絡まれてるにも関わらず大口を叩くレイに、ギルド中から笑い声が溢れる。新人の大ホラ吹きと馬鹿にする者もいれば、興味深そうにレイを見る一団もいた。



「じゃあおっさん達、訓練場行こうぜ〜」


 自分が笑いものになっても一切気にする素振りを見せないレイ、余りに軽い態度だった為か絡んできた冒険者達は口をポカーンと開けていたが、そのうち我に返り⋯⋯


「「「俺はおっさんじゃねーー!!」」」





 ◆◆◆





「さぁ張った張った! 俺こと新人冒険者のレイ対よく分からんが絡んできたチンピラ先輩方と模擬戦を行うぞ!! ちなみに俺は自分に10.000リル賭ける!持ち金は無い、つまり俺が負ければ一気に借金奴隷だーー!!」



 興味本位に着いてきた冒険者、元々訓練場にいた冒険者、模擬戦の審判をするために来たギルド職員もみんな唖然としている。


 普通は自分をエサに賭け事をしない、しかも負ければ借金奴隷という地獄が待っているのに、本人は嬉しそうに声高々と持ち金が無いことを暴露している。 ぶっ飛んだ新人が来たと面白そうに周りの冒険者達も賭けに参加していく。



「お前金持ってねーのかよ、つまんねぇ。さっさと終わらせようぜ」

「あいつを借金奴隷に落としたら俺達がこき使ってやろうぜ?」

「へへっ、そいつはいいや」


 モブ達が何か言っているがテンションの上がっているレイには届いていない。



「⋯⋯それでは互いに命に関わる攻撃はしないように───────始め!」


「おう坊主、初手は譲ってやるよ〜!」


 木剣をヒラヒラさせながらニヤついた気持ち悪い笑顔でそう告げてくるチンピラ達に、レイは満面の笑みで答える。



「なんと優しい先輩たち! お言葉に甘えて俺からいかせていただき⋯⋯ます!!」


「ぐふぉっ」、「あばっ」、「ちょ、ぎゃっ」


「───────っと、はい俺の勝ち! 賭け金ゲット&星二昇格〜〜〜♪」


「っ!しょ、勝者、レイ!!!」



 動揺している審判より先に自分の勝利を確信したレイは、スキップで訓練場を後にした。


 訓練場は静寂が支配していた。

 自分を賭け事にする新人冒険者を、少なくとも心は普通じゃないと思っていたが、実力も普通じゃない。 星二とはいえ3人を一発で沈めた、とんでもない新人が来た⋯⋯⋯⋯全員がそう思った。

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