第10話 デコレーション
蒼唯達がバレー部を見に行っていた頃、愛莉たちは文化部の方へ向かっていた。
私とさくは、事前にどうやって部活を見て回るか相談していた。
中学の時には無かった部活が運動部にも文化部にもあって私たちは凄く楽しみにしていた。
まず先に運動部を見て、最後に文化部をゆっくり見て回ると決めており、前日にやっと運動部を見終わっていたのだった。
「落語研究部面白かったね!」
「うん!落語に興味無いからどんなものなのかな?って見る前は私も愛莉も言ってたけど、先輩たちが優しくこんな感じですよーって軽くやってくれて楽しめたね!」
「そうだね。運動部も文化部も見て回るだけで、色々な刺激とか経験ができたりしていいですな~」
お互いに見て回った部活の感想を言い合ったりしていた。
「次は家庭科部か。中学のと高校の家庭科部違いがあるのか楽しみ」
「服とか作ってたりして!あと難易度が高いお菓子とか作ってそう?気になる!早く行こ、愛莉」
少し早く歩いて家庭科部の扉の前に立つ。
扉をゆっくり開けると、甘いいい匂いが私たちを包み込む。
中を見てみると丁度焼けたと思われるケーキをオーブンから取り出している女の人が見えた。
「ん?いらっしゃい。ちょっと待っててねー。私は家庭科部の部長、甘味。そこで見学してる子の隣で見ててね」
「分かりました!」
椅子にちょこんと座っている女の子のような男の子がいた。
「蒼唯!?」
「あー蒼唯ちゃんじゃん。やっほー」
「愛莉ちゃんに望乃さん!二人とも文化部を回ってたんですね」
「そういう蒼唯ちゃんは麗王と運動部見てたんじゃないの?」
「さっきまで運動部見てたんですけど、くまさんが文化部に興味無いからーって、一人で見に来ました!」
「そうなの?じゃあ一緒に見る?愛莉、いいよね?」
「いいんですか?」
「ふん、好きにすれば」
私はさくの圧で断れなかった。
最近蒼唯と関わることが増えたため、私は蒼唯のことを、本当はどう思っているのか偶に考えることが増えたような気がする。
考え事をしていると部長さんが私たちに、
「ケーキのコーティングとかやってみない?今私以外の子たち用事があって遅くなるらしいから遠慮しなくていいからね」
蒼唯は興味あるようで、目をキラキラ輝かせていた。
望乃にせっかくだから三人でやってみよ!と言われ、私も興味がないわけじゃなかったのでやってみることにした。
「クリームは私が塗ってあげるから、ホイップクリーム絞ったりデコったり好きにしていいよ!」
「僕ホイップクリーム絞ってみたいです!」
「私も!」
「さくがやるなら私もやってみたいです!でも失敗とかしちゃったらどうしよう」
「私がやってみる?って誘ったんだから、後輩ちゃんたちは気にせず楽しくやってくれたら、私は嬉しいな!」
「「「はい!」」」
私はケーキをデコレーションすることに夢中になり、気づくと蒼唯のことを気にせず三人で仲良く取り組んでいた。
「ちょっと、蒼唯!ここに絞ってみたら可愛くなるかも!」
「そうですね!」
「愛莉いいねー!」
「愛莉ちゃんここにこんな感じでフルーツを置いてみるのはどうですか?」
「そうね、とっても可愛くできそうでいいと思う!」
三人が熱中して作ってるのを腕を組んでいいものだなと頷きながら部長は見ていた。
(この子達、可愛いし入ってくれないかなー)
「蒼唯ここのホイップ上手くできてる!すごい!」
「愛莉ちゃんも器用に形を崩さないように出来てて凄いです!」
「二人とも、見てこれ!」
「「おぉー」
「チョコ板に猫の絵描いてみました!ふふん!」
「さくの描いた猫可愛いー!!」
「上手です!!」
なんてワイワイしながら、やっと完成した。
「うん。よくできてる!後輩ちゃん達、写真撮る?」
「「「お願いします!!」」」
私たちは、写真を撮ってもらい、切り分けられたケーキを食べることになった。
「あー!可愛いケーキが・・・」
「僕たちの可愛い子が・・・」
「蒼唯ちゃん!愛莉!写真に残したんだから、いいじゃん!ね?だから一緒に食べよ!」
「「うん!」」
「「「いただきまーす」」」
「美味しい・・・」
「部長さんが作ったスポンジ、とてもふわふわしてて雲みたいです!」
「ほんとだー!ん~最高!!」
「そんなに褒められると・・・はは」
私たちは話しながら食べ終わった。
ケーキ作りに夢中になってて気づかなかったけど、もう見学が終わる時間になっていた。
片付けを手伝って、部長さんにお礼をして三人で帰ることにした。
学校を出て綺麗な夕焼けを背に私たちは歩きながら話し始めた。
「愛莉ちゃん、望乃さん楽しかったですね!」
「うんうん!」
「ねっ!部長さんもいい人だった~!それで二人は部活どこに入るか決めた?」
「僕はまだ!」
「私もー。さくはどうなの?」
「食べるのも作るのも好きだから、家庭科部に入ろうかなーとへへ」
さくは少し照れながら言う。多分部長さんに胃袋をつかまれたんだな。
「私はここまでだね。また明日ねー!」
(愛莉は気づいてないけど、蒼唯ちゃんと今いい感じになってる。その調子だからね!!)
望乃はそう思いながら走っていった。
春なので辺りはまだ明るい。
涼しい風が私と蒼唯に吹いていた。
「愛莉ちゃんと久しぶりに可愛いものが作れて楽しかったです。また作りましょうね。」
夕焼けと柔らかな笑みが相まって天使のように見える。
私は思わず、
「うん!」
と言ってしまった。
「あっ、今の無し!無しだからね!!それに勝負の件もあるし!」
私は慌てて蒼唯にそう言うが、
「へへ、分かってますよ!でも前みたいに仲良く喋れてよかったです!じゃあまた明日!」
「あっ!」
夕焼けで顔が赤く染まっているように見える蒼唯は家のほうに走っていった。
そしてさっきまで昔みたいに話していたことにやっと気づいた愛莉は家に帰った後ベッドのうえで項垂れていたのだった。
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