第48話 急展開

 恐る恐る皇女殿下の勧めてこられたお茶を飲みましたが、とりあえず濃くて渋いだけで毒ではないようでした。

 生きてます!!



 そしてちゃんと飲み終えたので交渉決裂で解散です。

 私は本来なら怯えて俯くところを胸をはって堂々と、毅然としてお茶会の場をあとにしました。


 旦那様への思いが、私をだいぶん強くしてくれたようです。


 さあ、護衛騎士と合流して旦那様の元へ参りましょう。


 でも、調査部ってどこでしょうね?

 私はキョロキョロと周囲を見渡しつつ皇城の廊下を歩き、近くにいたメイドに声をかけて旦那様の居場所を見つけました。


 旦那様と合流し、捜査の件を聞きました。


 お茶の出どころは例の伯爵令嬢の家の使用人らしい。

 お嬢様を心酔しててなんでも言うことを聞く系の。


 「あの女を懲らしめるいい薬を手に入れてちょうだい。うまくいったら私の足にキスさせてあげるわ」


 なんてSM女王様みたいなことを言われて釣られたらしいです。

 足にキスごときで!?

 唇ですらないのに!?

 けれどいくらなんでも高位貴族の令嬢が平民に唇にキスなど許すはずがないですね。


 令嬢のほうが惚れてるならともかく。

 本当に……変わった嗜好の方がいるものです。



 「その執事は惚れ薬だとか怪しいものを扱う闇の商人から買ったらしいが、すでにその商人はトンズラして捜索は難航しているとのことだ」


「そうなんですね」

「それにしても皇女とのお茶会は随分早い解散だったな?」

「お茶会というか、交渉の場でしたね」

「交渉とはなんの?」


 私は小声になって、


「それは、タウンハウスに帰ってからお話します」


 と、お話しました。


「せっかくだから皇都の名所見物でもして行くか?」


 優しい旦那様は実家生活時代に遊びに出れなかった私を楽しませる為に、このように提案して下さってくれてるのだと推察されます。



「それは楽しそうですが、旦那様のお仕事の方は大丈夫でしょうか?」


「父が現役の公爵だ。書類仕事は頑張ってくれているし、今は補佐たる私の仕事は主に戦闘だ。魔獣等が現れたら討伐に行く的な」


「そうですか、じゃああの時計塔に登ってみたいです」



 皇都のシンボル的な時計塔が城下街にそびえ立っているのが皇城の窓からも見えます。


「分かった、オペラや芝居にも興味があれば劇場に行ってもいい、あるいは美術館とか」

「はい、楽しみです」



 まるで新婚旅行の続きのようですね。


 * * *


 とりあえず私達はハウスタウンに戻りました。


 そして人目がなくなったところで、私は本日のお茶会での出来事を話ました。


 皇女殿下が旦那様との結婚を望んでいて、更に私を皇太子殿下の側妃にという申し出があったと伝えましたら……


 夏だというのに応接室の空気が一気に冷えました。


「結婚式をまだ挙げてないだけで随分と好き勝手言われるものだな」



 旦那様は激怒の表情だと思います。


「既に籍は入れてあると言ってもそれなので、皇女殿下はよほど旦那様の事が……」

「私は皇女の事は特に何も思ってなかったが、今は嫌いになった。他国の王の次妃にと望まれてるのが不満で私を使って逃げたいだけだろう」



 しょ、正直に話しすぎたでしょうか?

 皇家との仲が不穏になりすぎな気が……。

 反乱とか戦争は流石に回避したいのですが。



「で、でも、お綺麗な方ですよね」

「関係ないな。エリアナの方が綺麗とかわいいの両方揃っているぞ」


 あ、ありがとうございます! お世辞でも嬉しいです!

 で、でもとりあえず意識を反らせましょう!



「明日は塔に登るのですよね、暑くなるといけないので人の少ない早朝にしましょうか」

「そうか、分かった。でも塔を見たら芝居はまた今度にして、ドレスショップにでも行こう」

「何故ですか?」 



 急にドレスショップ?

 お茶会用に新しいドレスを購入したばかりですが。



「式を挙げてないだけでこうも言われるなら、さっさとウェディングドレスを仕立て、式を挙げようじゃないか!」


「そ、それはそうかもしれませんが、結婚式はそんなに怒りながらやるものでも……」

「!! そえいえばそうだな、すまない。あまりのことに……我を忘れたようだ」


「い、いいえ」

「それはそれとしてドレスは買おう、主治医もそろそろいいのではと勧めてきたことだし」

「そ、そうですか、主治医が」



 なんか、恥ずかしいです。

 月のものの話がおそらく伝わったのでそういう流れになったと思われますので。


 でも、ドレスが仕上がるまでしばらくはかかるでしょうし、その間に心の準備をしましょうか。

 そもそも式は飛ばしても籍はもう入ってるのですからそんなに緊張することもないはずなのですが、心臓がうるさくなっています。



「私は招待客はいらないのですが、やはり公爵家としては華やかに豪華にやるものですか?」


 本国の貴族のお友達は今のところ、虫害に悩んでいたウーリュ男爵家の令嬢一人くらいな上に、実家の家族は嫌いですし。

 更に高貴な皇家の方の交渉を蹴ったばかりで他の貴族を招待するのも大変気まずいです。

 誰がどう皇家と強く繋がってるとか、考えるのもうんざりしてきます。



「エリアナが招待客を呼びたくないなら神父の他は家族だけでひっそりやろう。普通の貴族令嬢の結婚式となると豪華にやるものだが」

「公爵家の方だけいてくだされば私は幸せです」




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