第47話 交換
皇女殿下のお茶会のための準備を始めます。
ドレス、それに合わせた靴、アクセサリー等をどれにするか、新調するかも考えます。
「新しく揃えましょう、若奥様! 旅先でドレス一着失いましたよ」
「うう、そうでした」
あの時は急に猫になったのでドレスを土の上で引きずってしまい、旦那様が回収したのち燃やしたと言われてました。
悲しいです。
せっかく旦那様が選んで買ってくださったものだったのに。
メイドは嬉々としてドレスのカタログを勧めてきます。
私はカタログを手にし、ページをめくりながら思案します。
夏なので爽やかな水色のドレスでいいでしょうか?
別にドレスコードは色が何色とか書いてありませんし。
先日、夢の中で図書館が現れましたが、貴重な情報を読むと魔力消費が多いらしいので尻込みしました。
扉を前にして開けなかったのは初めてです。
すごくもったいない気もしますけど、お茶会の最中に魔力不足で呪いの抵抗が弱まり、万が一にも人前で猫にでもなったら大変ですから……。
安全のためにお出かけの用事のある前は極力見ないようにしようと思っています。
結局夏なので水色のドレスに首飾りはサファイアとダイヤを使ったものにしました。
ドレスの色が淡いので同系色でも濃い色のサファイアに。
お茶会の衣装の検討も終わり、しばらくしてドレスも仕上がってまいりました。
お茶会までそう時間も無かったので急いでもらいました。
そうして来たるお茶会当日。
旦那様は皇女殿下の女子会のお茶会には来られません。
同じ皇都までは付き添いで来てくださったけど、茶会の場には入れません。
皇女殿下のお茶会の場所に到着しました。
皇城の中で緊張します。
「ではエリアナ、私は調査部であの特殊な魔力を乱すお茶の事を調べつつ待っているから、何かあれば叫ぶんだぞ、私を呼べ」
旦那様の心遣いはありがたいのですが、
「流石にこんなに広い皇城で叫んだところで聞こえませんよ」
「妻の声だけは聞こえるはず」
頑強に言いはる旦那様の姿に、私は少し笑ってしまいました。
「ふふっ、ありがとうございます」
* *
「では、エリアナを頼むぞ、シャーラ卿」
「はっ、かしこまりました!」
今回は旦那様が私の為に女性の護衛騎士を手配してくださったので、扉前までは同行してました。
「護衛騎士はここまでです、皇女殿下と同じ部屋には入れません。近くで待機なさってください」
皇室の護衛騎士がここまでですと言うので仕方ありません。
私はドキドキしつつ、一人でお茶会お部屋に入りました。
執事、メイド、そして皇女殿下は既におられます。
そしてなんと私と皇女殿下のドレスの色が被っています!
皇女殿下が水色をお召しだと紹介状の事前情報にでも書いておいてくださったら被りを避れられたものを!
他の令嬢は?
と、見回しますが、私が一番乗りだったのか、見当たりません!
ラウンドテーブルと椅子がいくつか用意されていますが、数が極端に少ないです。
全部で3セットしかない!
「皇女殿下、本日はお茶会にお招きいただき真にありがとう存じます」
「堅苦しい挨拶はいいから座ってちょうだい」
そう言って皇女殿下が畳んだ扇子で指し示したのは、皇女殿下と同じテーブルの席の対面側!
サシ状態ですけど!?
よく考えたらおかしいです。
皇女殿下のお茶会なら我先にとご機嫌取りの令嬢が早めに来ていてもおかしくないのに、私が一番乗りとは。
「あの、他の方は……」
「あなた以外の令嬢達は体調不良で来れなくなったそうよ」
「え!? そ、そうなのですか、知りませんでした」
まさか、全員がそんなことあります!?
万が一、流行り病でそこまで深刻なら噂が公爵領まで届いているはず!
……もしや嘘では!? 最初から私だけを呼ばれていたのでは!?
「単刀直入に言うわね」
私はその言葉でこれは和やかなお茶会などではないと察しました。
「弟、皇太子が貴女の事を気にいっているみたいなの」
「恐れながら皇女殿下、私は既に公爵家に嫁いだ人妻でございますので、そのような」
「でもまだ結婚式は挙げてないのでしょう?」
皇女殿下のクールな眼差しが私を射抜くかのようです。
「式がまだでも籍は既に入っております。皇帝陛下の承認も得まして、その書類もございます」
「それ、皇太子が貴女を気に入る前の話でしょう?」
「かと言って、たいした後ろ盾もない私を皇太子殿下の側に置いてもメリットなどございませんでしょう」
今の借金しかない実家の子爵家はなんの力もないと言えます。
今はクリストロ公爵家からの多額の結婚支度金で食いつないでいるはずですし。
「もちろんいずれ皇帝になる皇太子の正妃は無理でも、側妃であれば可能でしょう」
「言い方は悪いですが、皇室、上から下賜されるならともかく既に誰かの妻になった女を皇太子殿下の側妃にすることは恥となるのではと」
「特別な才能、能力のあるものならそれは構わないのよ」
ここですっと、テーブルの上にメイドが出してきたのはアイスクリームだ。
皇太子殿下が伝えたのかしら?
そういえばヒイズル国で皇太子殿下も食べたはずだから。
「私にそんな特別な才能なんてものはございません、夫から聞いた話をただ覚えていただけなので」
表向きは長生きエルフの知恵ということになっています。
私は才能持ちどころか呪持ちの不良債権みたいなものです。
猫好きだけがやや得をする程度の。
「それでも女ってしょせんかわいいだけでも価値があるじゃない? 猫のように」
私は思わず息を飲みました。
わざわざ子爵家の不穏な噂を仕入れてらっしゃるの?
でもだとしたらどうして呪持ちを大切な皇帝候補の皇太子に近付けるの?
いくら私が気にいられてるからといっても……
「私が次期クリストロ公爵夫人になって、貴女が皇太子の側妃になればよくないかしら? 立場を入れ替えましょう? ちょうど今日の私達のドレスもおそろいの水色よ」
いくらないでもそれはないでしょう!
たかが今日着たドレスの色が被ってるくらいで!
──はっ、さては皇女殿下!!
旦那様に一目惚れでもされましたか!?
きっとそうですね、ハッ! 皇太子殿下のせいにしたふりで旦那様を!!
私の胸の中に燃え盛る熱い炎が宿ったかのようです。
「私はゴードヘルフ様をお慕いしておりますから、離婚する予定はございません」
決して 奪われたくない。
奪われてばかりの人生だったけど。
こればっかりは、譲れません。
「そう、残念だわ。ではこのお茶を飲んでから解散としましょう」
私の目の前のティーカップには既に茶が注がれていて、温かい湯気がまだ立っています。
まさかこの場で毒殺なんてされませんよね?
公爵家の嫁が毒殺されたら大問題です。
下手すれば戦争ですもの!
それに、皇女殿下の要求を断ったばかりですし、お茶すらも断ったら無礼がすぎるでしょう……。
私は恐る恐るお茶を口にしました。
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