第49話 預言書

「……ハァ、ハァッ、……わあっ、さすが時計塔のてっぺん! 高いですね」

「そうだな」



 夏に螺旋階段を沢山登るということになるので、早朝に人が登れる最上階まで、私と旦那様と護衛騎士は上がって来ました。


 メイドはしんどそうなので塔の入口付近で待機させてます。


 鍛え方が足りない私は旦那様と違い、息が上がりましたが。



「街が見渡せます、いい眺め……」

「気に入ったか?」



「はい」

 私がそう言って上機嫌で微笑むと、


「誰にも渡さないからな、皇太子にも、誰にも」


 そう言って急に旦那様にぎゅっと抱きしめられました!

 待ってください!

 ハグはとても嬉しいですけど、今はちよっと汗をかいているかも!

 塔を登ってきたので!



 護衛騎士は空気を読んでその場からさっと去りました。


 私は恥ずかしくて慌てて視線を塔からの景色に彷徨わせると、




「あっ! 海の方角には島が見えますね!」



 あの遠くに見える島の形……どこかで見覚えがあるような……あ、本ですね。

 夢の中の図書館の。


 そして旦那様が私を離して島を見て一言、



「レスディオ火竜の眠る島だな」




 旦那様のその火竜という言葉を聞いた瞬間、ざわりと鳥肌が立ちました。




「地震、そして……火竜の目覚め、家屋は倒れ、多くの人が火竜に襲われ……」


 ブツブツと私が呟くと旦那様が……さらなる情報をくださいました。


「あの火竜は長い長い冬眠期に入ってるから、島に人も移り住んでいるぞ」


 あ、私が読んだあれは……もしや……、



「予言書だったかもしれません……」

「なに? 予言? 未来に地震が起きて火竜が起きて襲ってくると言う話か?」 


「今の……帝国暦は4004年の8月……ああっ」

「なんだ?」

「やはり来月の9月XX日に地震があって、島民の多くの家は崩れ、火竜が目覚め沢山の人が犠牲になる予言でした」


「それが本当なら大変だ。島民を全員なんとか避難させないと」


「よ、予言書の事を言わずにどうにか避難させるしかないと思いますが、どうしましょう?」

「……口からでまかせだが、旅の預言者が現れたとか言うか?」


「その予言者は誰だと聞かれたら?」

「名前を名乗らなかった謎の老人とでもごまかすしかない」

「それで信じてくれるでしょうか?」

「信じて素直に避難するものだけは助かるだろう」


「仕方ありません、結婚式を9月16日の火竜目覚めの日にして、島民を招待しましょう」

「島民を!? 全員!? うちは遠いぞ!?」


「クリストロ公爵領までは火竜も来ないはずですから命は救えます。転移の費用はこちら持ちで、食事は無料支給、宿泊は城に」



 貴族の結婚式はとにかく豪華ですごいお金が動きます。

 どうせなら見栄を張るより命を守る為に。



「大切な結婚式に貴族も招待しないのに平民達を呼ぶのは不審がられるぞ」

「では私側の招待貴族は、ウーリュ男爵家の方を呼んでおきましょう」



 なんと新婦の私側は一人しか友達がいません……。



「島民は……確か300人くらいだったと聞いたことがあるから、城には……まあ入るか」



 何しろクリストロ公爵の城は大きいので。



「どうせ貴族の結婚式には莫大な予算がかかるものですから、旦那様が嫌でなければ」

「予算の事は気にしなくてもよい。でも結婚式当日に地震と火竜の目覚め事件があるのは縁起が悪いのではないか?」


「では、噴火の直前か数日後にしますか? 

なるべく貴重なものは家から持ち出してもらいたいので地震と火竜の目覚める予言は伝えたいと思うのですが……」


「家が地震や火竜が暴れて壊れるかもしれない予言をされてたら赤の他人の結婚式のお祝いなど、する気分になれないのではないか?」



 た、確かに……!



「では普通に皇都の方に島民の避難指示と保護を願い出ますか?」

「仕方ないから皇太子に島民の避難を指示させて寝てる間に私や精鋭達が火竜だけでも倒すか」



 竜を倒す!?


「でもクリストロ家は竜族の血筋なんですよね?」


「人間同士でも殺し合いをする世の中で、当家が竜の血筋だからと言って、竜は全部仲間だとかいう意識はないんだぞ」

「そ、そうなんですね」


「とりあえず、タウンハウスに謎の預言者が来たと皇太子に手紙を出すか」

「そ、そうですね」

「竜を討伐するなら私も出る事になるだろう。一般兵士が立ち向かえる相手ではないし、地震で目覚める前に行って倒すのが一番だからな」


 !!

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