第36話 温泉宿の夜に
温泉宿の夜。
夫婦なので寝室が同じです。
そして別にこの温泉宿、別に貸し切ってるわけでもないので、壁越しに隣の部屋の夫婦か恋人同士の色っぽい声が聞こえてきました。
気まずいです!
ひ、ひとまずミカドの后に悪阻の時でも食べられるものリストを、お手紙にしたためます。
……できました!
魔法の伝書鳥に持たせてもらいます。
この鳥は口頭でもメッセージが喋れますけど、文字であったほうが助かるはずなので。
そ、そして……鳥を飛ばしてくださった旦那様は長身で浴衣のサイズが合ってないのか、胸元がばあっと、開いておられます。
無駄にセクシーです。
お手紙も書き終わり、間が、間が持たない気がするので……
「うちの猫化の呪いについて、そろそろお話しようと思います」
あまり新婚旅行にふさわしい話題ではないのですが……。
「エリアナ、辛ければ無理しなくてもいいんだぞ?」
「だ、大丈夫です。ことは数代前のレイラと言う名のゼーネフェルダ子爵夫人が産後に体を崩した話から始まります。
体を壊したのもあり、子供はほとんど乳母が育てましたが……夫は愛人を家に連れて来てしまいました」
「ふむ……クズ野郎か」
旦那様は宿で出された清酒を飲んでいます。
ツマミは乾き物。
「そしてレイラ子爵夫人には結婚前からとても可愛がっていた大事な飼い猫がおりました。
夫は婿養子です。
体を壊した妻の代わりをさせる女を作るのは、貴族間ではよくあることとはいえ、その愛人の女が猫の毛がドレスにつくという理由で大切な猫を殺してしまいました」
バリン!!
「罪もない可愛い猫になんてことを!」
「あっ」
旦那様が怒りのあまり、手にしていたお猪口を破壊してしまいました。
慌てて布巾でテーブルの上で床にこぼしたお酒を拭きます。
「あ。すまない、思わず……」
「確かに罪もない猫が殺されたのは悲しいことです。そしてレイラ夫人は愛猫の死に嘆き悲しみ、裏切った夫と愛人を呪いながら死んでいきました。これがゼーネフェルダの猫化の呪いの始まりです」
「それにしても数代前の呪いなのにずいぶん強いな」
「もっと遡るとゼーネフェルダの、母方の血筋に巫女系の血が混ざっていたせいかと思われます。神聖な血が恨みで反転して呪いになったというか……」
「なるほど……そして愛人はどうなったんだ?」
「ある日、庭で野良猫に噛まれて、その傷が原因で死んだそうです」
「い、因果応報……だな」
「こんな……曰く付きの家の娘で申し訳ありません……」
「呪いをうけたのはエリアナのせいではない」
その日の夜は夢を見ました。
図書館の夢ではなく、森の中にいました。
小さな子供のブラックドラゴンが怪我をしていて、森の中で迷子になっていました。
白い猫を連れた銀髪の女の子が現れて、そのドラゴンの子の手当をしてから、家族の下へと道案内をしてあげていました。
大きな母親のドラゴンは少女に礼をするように一度頭を下げた後に一声吠えて、子供を抱えて飛び去って行きました。
不思議な夢でした。
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