第34話 人助け
何か少年に食べ物をと、お店が多く立ち並ぶ街に入りました。
瓦屋根のお店がずらりと並んでなかなか賑やかな場所です。
まず、お蕎麦屋が目に入りましたが、箸の使い方をマスターしていません!
うっかりしていました。
会食の場では気を使っていただいて、箸以外のカトラリーがあったので気にしていませんでしたが。
「だ、旦那様、あそこに大福とせんべい屋がありますが」
「甘くないならどちらでもかまわないが」
あっ!
既に饅頭は食べたので今度は甘くないものですよね!
でもせんべいはおやつであり、主食にはなりえませんよね。
「あ! 串焼き! あそこの鳥の串焼きならば!それとおせんべいをお土産にしましょう!」
串焼きになりました。この肉は鶏です。
「やった、お肉だ!」
行き倒れ少年にも奢りますが……ちょっと待って!
「君は行き倒れるほどお腹が空いてたから、お肉は危ないわ。きっと内臓が弱ってる。あそこのおうどんを食べて来なさい、ほら、お金」
チャリンと、港で両替をお願いした小銭をあげました。
素うどんくらいは食べられるはず。
「えー」
「えーではなく、お腹がびっくりするでしょう、この状況でお肉は、死んだらどうするの?」
「小僧、若奥様の言う通りにせよ、反論するな、無礼だぞ」
うちの護衛騎士が少年を嗜めました。
「わ、わかったよぉ……食べ終わったらまたあの川に戻ればいいんだね?」
「そうよ、また後で、夕刻くらいに川で落ち合いましょう」
しぶしぶ従ってくれ、少年は私があげた小銭を握りしめてうどん屋の方に向かいました。
我々は串焼きをいただきます。
先程からずっといい匂いが立ち上っています。
串焼きの調味料はシンプルな塩のみでしたが、肉質がジューシーで美味しいです!
貴族の奥さまらしくはないのですが、無理やり箸で啜る食べ物に挑んで失敗し、無様を晒すよりはいいです。
私だけ恥をかくならともかく、旦那様はいけません。
私ったら食べることばかり考えて箸の練習を忘れるなんてとんだおバカさんです。
「今度はお箸の練習をしてからなら我々もうどんやお蕎麦が食べられますね」
「エリアナが勉強しろと言うならなんだってやってみるさ」
「ありがとうございます!」
面倒くさがらずに練習に付き合ってくださるようです。
優しい方です。
しかしそんな時、突如、女性の悲鳴が上がりました。
どうも布屋さんの前のようです。
「きゃあっ! 離して!」
「やめてください! どうか娘だけは!」
「ええい、借金が返せないなら、てめえの娘に体で返してもらうしかねぇだろうが!」
物語に出てくるような、いかにも悪者風の借金取りの男が三人、女性に無体を働いています!
「あっ! ちよっと誰かあの女性を……」
私が思わず叫んだところで旦那様が一番に走って借金取りを掴んでは投げ飛ばし、護衛の侍も加わり、すごい速さで制圧しました。
しびれる速さです!
「いくらなんでも強引すぎたな」
「遠方よりの客人の前で恥をかかせおって!」
「な、なんですか!? お役人様ですか!?
こいつらが借金を返さないのが悪いんでさぁ!」
それはそうかもしれませんが……私は借金取りに声をかけることにしました。
「おいくらなんです? その借金は」
「こ、小判1枚……1両でさぁ」
男たちは取り押さえられたまま、そう言いました。
「はい、ではその1両、私が代わりに払いましょう。ですから娘さんを無理やり連れて行くのはやめてください。……どうぞ」
「え、あんた様が!? ま、まあ、払ってもらえるなら!」
私は巾着袋から金色の小判を取り出し、借金取りに一枚差し上げました。
* * *
「え、縁もゆかりも無い私たちの為に、このような大金を……」
「め、女神様?」
布屋の親父さんと娘さんが驚いています。
小判1枚は、大金です。平民にとっては。
どうやら布を染めるお店屋さんのようですが、おそらくは商売が上手くいってなかったんですね。
「思わず、見るに見かねて……旦那様、すみません」
私は公爵家のお金をつい勝手に……。
でも私のお小遣いの範囲ならば……と。
「いやいや、エリアナの望むとおりにしてかまわないさ」
「ありがとうございます」
「あ、魔法の伝書鳥です! あの鳥はケビン様の!」
護衛が叫んだ後に旦那様がその逞しい二の腕に鳥を止まらせました。
そしてやおら話しだす、魔法の伝書鳥さん。
『アイス大人気で売れすぎてさあ! 先にバニラビーンズ無くなったんだけど! どうしよう!?』
「どうしようもくそもあるか」
旦那様が大変クールなお返事をされています。
これはケビン様のサポートをせねば。
家族として!
「ケビン様、それはバニラビーンズなしでも作れはしますから、少し値段を安くしてとか……」
『やはりそれしかないかー、ところで今、兄上達のいる国にはバニラビーンズある?』
「おそらくバニラビーンズはありません。ここには米としょう油と味噌を求めて来ました。あ、でも抹茶ならあるかもしれませんのでいずれ新商品として、抹茶アイスとかはいいかもです。あるいは…えー、きなこと黒蜜など?」
『姉上! とにかくさっきおっしゃっていた甘味に合いそうなのあれば輸入よろしくお願いします!』
「は、はい、ミカドのお許しが出るならお願いして見繕ってまいりますね」
それから、魔法の伝書鳥は飛び去って行き、助けた布屋さんで絞り染めの布が飾ってあるのを見つけて、私から頼んで絞り染め体験をさせていただきました。
「このように布を糸で縛れば、染料の染み方が変わるのでおもしろい模様になったりします」
娘さんが絞り染めのレクチャーをしてくれます。
これは結構楽しい体験ですよ、お金を取れますよと教えておきました。
お金を稼ぐヒントは渡したので、あとはうまくやってくれたらと思います。
なお、我々の染めた布ですが、旦那様の魔法でかなり時短の乾かし方をすると、キレイなスカーフが出来上がりました。
「俺の染めた黄緑色の布はエリアナに贈ろう」
「では私の染めた青色のものは旦那様へ」
夫婦でスカーフの交換をしました。
いい思い出になりました!
絞り染め体験を終えて川に戻ると、先にあの少年が来て、しびれをきらしたのか既にビクを回収していました。
もう夕刻ですものね。夏だから暗くなるのが遅くはありますが、遅くなってごめんなさい。
川に落ちる夕焼けの照り返しが美しいです。
川辺にて少年が回収したビクの中身、成果を確認すると、籠の中はけっこうな数の小魚がいます!
ピッチピチ跳ねてて、生きもいい!
よかった!!
少年が私達を見つけて声を張り上げました!
「ねえ! おねーさん!ドジョウやエビや小魚が入ってる!」
「おめでとう、よかったわね」
「ありがとうおねーさん!」
「その漁具はあげるから、これからも川魚を獲りたくなったら使うといいわ」
「ありがとう!」
これで空腹のあまり子供が道端で行き倒れることが無くなるといいのですけど……。
「では、皆様、そろそろ温泉へ向かいましょう」
それから私達はお付きのガイドさんの言うように温泉を目指して移動しました。
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