第33話 市井の川辺にて
入浴後、私は公爵夫人として恥ずかしくないレベルの優雅なドレスを纏いました。
そして同じく着飾った旦那様はこの辺一帯の顔面偏差値を爆上げされています。
その輝くような旦那様と共に、宮の中にある謁見の間に通されました。
畳と座布団を重ねて高い位置に座するミカドとの謁見。
この国の方は基本的にあまり背丈は高くないようです。旦那様が高すぎるだけかもしれませんが。
つまりその、頭が……我々より下の位置に来ることは許されない的な矜持を持つ姿に、何かどこかで見たようなデジャブを感じます、
しかし私はミカドに頭を下げることに抵抗はありません。
米と醤油と味噌の為ならばなんてことはありません。ぶっちゃけ些事!
そしてヴィルシュテッター帝国の代表たる皇太子殿下の華麗なスピーチと挨拶の後に、我々も挨拶をし、会食の席で特別な願いをするチャンスを得ました。
「ミカド、私は貴国の誇る食であろう米と醤油、味噌を求めて参りました。お土産にお譲りいただくことは可能でしょうか?」
私はこちらからの貢物たる美しい宝石や珍しい植物の種を差し出し、恐縮しながら尋ねました。
トレードをお願いします!!
ミカドはこちらが用意した美しい宝石などの贈り物を見て、機嫌をよくされたようです。
そして微笑みながら答えてくださいました。
「公爵夫人、貴女の願いは興味深い。我が国においては主食の米、そして醤油と味噌は工夫を重ねて生み出した大切なもの。しかしながら、お互いの友好を示すため、それを贈呈することにしよう」
「ありがとう存じます!」
私は心から喜びました。
ミカドは米と醤油、味噌をお土産に手配してくれくれると約束してくださいました。
我々は鯛などの魚介をメインとした見た目も美しく美味しい食事を堪能し、踊り子の舞なども見せていただき、歓迎を受けました。
ところでここまで公の場で后の姿がなかったのは懐妊中で大事をとっているそうです。
おめでた!
夜は畳のよい香りのする部屋に案内され、本で見た蚊帳の中で寝ることになりました。
ヒイズル国の夏!!
更に宮の庭の中にある池では蛍が舞っています!
風流!!
翌日、私は市井の見物も許されました。
皇太子殿下は引き続きヒイズル国側の歓待を受けてもらう為に別行動です。
皇太子殿下が異国の美術品やら工芸品等を見せてもらったりするのだと思います。
その役割をサラリと旦那様が皇太子殿下に押し付けました。
新婚旅行についてくる皇太子殿下に怒っているのでしょう。
やっと別行動だと喜んでおられます。
我々は別行動をし、市井の街や村を巡り、温泉を目指します。
牛ではなく馬を借りることが出来ました。
そこかしこに竹林があります。
とある村の散策中、川の側の道端で倒れる幼い少年を見かけました。
年齢は10歳くらいでしょうか?
すわ熱中症か何かかと思い、馬から降りて声をかけました。
「君、大丈夫!?」
「腹……減った」
あ、空腹の行倒れです! 服も簡素なものを着ていますし、おそらくはこの国も貧富の差が激しく、この少年の家は貧しいのだろうと推測されます!
本日は紅白のおまんじゅうをいただいていますし、これをあげてみます!
「おまんじゅうがあるけど、食べるかしら?」
「食う……」
少年は一生懸命おまんじゅうにかぶりつきました。
「ヒック!」
しゃっくり!!
少年が慌てて食べるから横隔膜が驚いてる!?
「ゆっくり食べて! 誰も取らないから!
ほら、しゃっくりが出てるわ!」
「あ、ありがとう、お姉さん」
「川があるが、魚でも捕ればよくないか?」
旦那様が竹で作られた水筒を少年に渡しながら言いました。
この水筒はヒイズル国の世話係の人がくださいました。
「日暮れまで釣り竿垂らしてもなんにも釣れないことの方が多いよ」
「でも魚がいないわけではないわよね?」
川の中の魚影が、目視できます。
「いるにはいるけどほとんど小さなハヤじゃないかなぁ」
「小魚でも罠を仕掛けてたくさん捕ればそこそこお腹の足しになるのではない?
ほら、その辺に自生している竹や魚を捕ることを禁じられていないなら……」
「竹なんかどこにでも生えてるし川魚も取ってはいけないなんて言われたことはないけど」
我々の案内兼通訳のお付きの人も大丈夫だと頷いてくださいましたし、なので私は竹で作る魚用の罠を作る事にしました。以前夢の図書館で見た映像記録を頼りに。
私は竹の前に立ち、ヒイズル国がつけてくれた刀を持つ護衛に声をかけました。
「この竹がほしいのですが、どこかにナタやノコギリはないでしょうか?」
「そのような物が無くともこれで」
護衛が腰の刀を抜くと、期待通りに竹を見事に斬ってくださいました。
「お見事です!」
「なんのこれしき」
「さらに数本欲しいです。それと編めるくらいに割いていただくことは可能でしょうか?」
「お安い御用です」
「ありがとうございます! 手を怪我しないように、気を付けてください」
「承知」
名前は確かビクとか言ったでしょうか?
入口が漏斗状になっており 一旦中に入った魚は 出られないという仕組みの竹製の漁具を私が編んで作ります!
がんばって精一杯急ぎました。
「すげぇ! お姉さん、器用だね!」
買ったほうが早いとはいえ、一度目の前で作って見せれば、買うお金が無くとも少年がいずれ自分でも作れるようになるかもしれません。
そしてしばして、漁具が出来上がりました!
「さあ、あの川に流されないように設置しましょう」
「おまかせください」
護衛騎士が代わりに川に入って罠を設置してくれました。
「でも、この罠を仕掛けて、あとどれくらいで魚取れる?」
少年が遠い目をして尋ねてきました。
「翌日が望ましいけど、さすがに2、3時間は待たないと……」
「お腹空くー」
少年はお腹ををさすっています。
「さっきおまんじゅう食べただろう?」
旦那様がそう言われるけれど、おまんじゅうでは育ち盛りの腹は満たされないと思います。
「旦那様、この隙に食べ物でも買いに行きましょう」
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