第16話 冷たいものと、熱くなるもの。
〜 ゴードヘルフ視点 〜
霧の日に、野営地の側の水辺にて黄色い花が群生していた。
一面に広がる黄色いアイリス。
偶然であった美しい景色を、エリアナにも見せてやりたいと思った。
朝から景色に見入っていると、部下の声が響いた。
「ゴードヘルフ様! お手紙とデザートが届きましたよ!」
「誰から?」
「もちろん若奥様のエリアナ様からです」
「なんと、わざわざデザートつきとは」
「さらに凍りの魔石付きですよ」
私はひんやり冷たい箱を受取り、手紙を開いた。
『ご無事でいらっしゃいますか? 私の方は元気です。勉強もダンスレッスンも頑張っています。
旦那様の不在の間は小鳥の食事は私が代理で果物をあげております。
食べに来ている愛らしい姿が見れましたよ!
そして先日は美味しいデザートを作り、クリストロ家のご家族の皆様にも、好評をいただいたデザートのアイスクリームを一緒に送りました。ぜひ、溶けないうちにお召し上がりください。
PS. アイスクリームはカラダを冷やすので、万が一お腹などを壊していたらご自分で食べるのは諦めて他の元気な方に上げてください。エリアナ』
「そうか……がんばっているようだな」
手紙にはオレンジを啄む可愛いらしい小鳥の姿が描かれていた。
私は最後に書かれたエリアナの署名のところにそっとキスを落とした。
「えっ!?」
部下が驚く声を上げた。
━━しまった! 見られた!
手紙に夢中になって存在を忘れていた!
「ゴホン。なんだ、まだいたのか、持ち場に戻れ」
「はっ、も、申し訳ありません!」
私は照れ隠しに、部下をさっさと追い払い、箱を開けてデザートを取り出した。
朝からだけど、まあ、いいよな。
俺は強いから朝から冷たいものを食べても腹など壊さない。
溶けないうちにと書いてあるしな。
黄色いアイリスを眺めながら、エリアナがわざわざ贈ってくれた冷たく白いものを口に入れた。
甘い! そしてなんと、口の中であっという間に溶けて消えた!
とても美味しいスイーツだった。
思わずすごい速さで完食するほどに。
甘さの余韻に浸っていたら、図書室での初めてのキスを思い出してしまった。
部下を下がらせておいてよかった。
たった今、冷たいものを食べたけど、顔が熱くなっている気がした。
◆ ◆ ◆
〜 エリアナ視点 〜
無能と思われると公爵家の恥となる。
優秀すぎても人材マニアらしき皇太子に目をつけられる可能性がある。
何事もほどほどに。
前回もダンスが無理で怪我したフリをして旦那様に抱えられて退場するというザマでしたし、
多少の名誉挽回はしたいとは思いますが、目立ち過ぎも良くないから、塩梅が難しいです。
なにはともあれ、皇室主催のピクニック当日が来ました。
ハンカチの刺繍もあと少しで完成するので持っていきます。
刺繍の柄は旦那様が夏生まれなので夏に咲く花の百合と、誇り高き竜族の末裔らしいので竜の刺繍をしています。
陽ざしが……眩しい。
お母様から贈られた白いレースの日傘で参戦です。
日焼け防止のレースの手袋も出番がきました。
そう、本日は晴天です。
いっそ雨ならピクニックは中止でしょうが、皇太子様は晴れ男かもしれません。
このような皇室主催の催しだと遠い領地の重要な招待客には転移スクロールが送られる事が多いそうで、当然こちらのクリストロ公爵家にも来てました。
広い離宮の庭園がピクニック場所のようで、神殿のようなものも建っていますし、そこかしこに優雅な日傘を挿すご婦人たちがいます。
眩いほど美しい緑の芝生に布を敷いて、既にくつろぐ方達も。
この場所には池もあり、アーチ橋の上から手を振り、ボートに乗る知り合いに挨拶をされる人達。
ピクニックバスケットを持って、笑い合う声が響き、今のところ和やかそのものです。
あ、でもそこかしこに令嬢達から少し離れた場所から護衛騎士達が護衛対象を守る為に目を光らせていますので、そこは少し厳めしいとも言えるでしょうか。
そして聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、そこかしこで頭を下げる人達。
その中にてひときわ目立つ方に向かって、私も挨拶をします。
「皇太子様にご挨拶申しあげます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます