第13話 ゴードヘルフの愛

 〜 夫、ゴードヘルフ視点 〜


 時は少し遡る。


「つまり、エリアナは満月の夜に猫耳と尻尾が生え、言葉は猫のようにニャーニャーとかしか言えなくなる変わった呪いが発動すると言うのね?」


 私はエリアナとドレスショプなどに買い物に行った後、晩餐前の時間にサロンにて密かに両親を呼び出し、人払いもし、例の呪いの件の説明をした。


「はい、母上」

「それであなたは不快になったりこの先行きが不安になったりしたのかしら?」 


「いいえ、とても可愛いらしいので一粒で二度美味しいみたいなお得感があります」

「じゃあ、問題はないのね」

「あるわけがありません。とてもかわいいので!」


 本心なので私はそう両親の前で断言した。

 このゴードヘルフ・ラ・クリストロ、偽りは言っていません。

 少なくともこの件では、本当に。


「いっそ本物の猫になるなら私も抱っこしたり撫でたりしたかったな……」


 なに!?


「父上! エリアナは私の妻なのでそれをしていいのは私だけです!」

「ええ……そんな……」


「まあ! 本物の猫になるならなんて、本人は現状の状態だけでも困っていて不安もあるでしょうに、かわいいだろうからって軽はずみな発言はいけませんよ。あなた!」

「そ、そうだな、少し配慮が足りなかった、反省するよ」


「全くこの家の男たちは皆、小さくて可愛い生き物が好きなんですから……」

「大好きなのに近寄ると怯えて逃げられるから……」


 母上にたしなめられて、父上がしょんぼりした。


「存じておりますよ、全く」


 ◆ ◆ ◆


 その後、皇太子から花祭りの招待状などが届き、

実家では屋敷から出して貰えなかったらしいエリアナのために、美しいものを見せてやりたくて、面倒な皇都の夜会も出る覚悟を決めた。


 両親を領地に残し、俺とエリアナとケビンは魔法のスクロールで皇都に移動した。


 花祭りや夜会のイベントをこなし、俺はその後に神殿で大神官にエリアナの洗礼の儀式を行って貰うことにした。


 おかげで彼女の権能の事がわかった。


 重大な秘密となったが、両親にはしばらくその事を伏せておくとエリアナに話したのは、実は使用人にうっかりミスで漏らすかもしれないなどというのが本当の理由ではなかった。


 わざわざそんな嘘をついたのは、そのような特殊な権能などなくても、私の両親が彼女に優しく、愛情を注いてくれたら、家の中に優しくしてくれる味方が私以外にもいると思えるようになるかもしれないから。


 本当に彼女がクリストロ公爵家を自分の家だと、落ち着ける、安心できる場所だと思えるように……。


 まだ結婚してもエリアナは遠慮があるのか、


「お父様とかお母様とか、呼べてないからな……」


 素直に呼べるようになるまで、彼女がここを安心できる場所と思えるようになるまで、何故家門が猫になる呪いを受けたとか、詳しいことも……訊くのはやめておこう。


 あの満月の夜は思わず人の言葉がまた喋れるようになったら聞くと思わず言ってしまったけど、朝になって元に戻ってもやはりやめた。

 聞かなかった。


 食事が不味く感じて食が進まなくなるのもいけないと思ったし、別に彼女のせいではなく、何代か前から呪いがあるという噂だからな……。

 話を聞いたとこで、何代も前からの呪いがすぐに解くことができるとも思えない。



 さて、寝る前に貯めていた仕事をやっつけるか。

 まだそこかしこで魔物は出てきているから、討伐依頼も届いてる。

 遠征の準備を進めよう。

 しばらくまた公爵家を留守にしないといけない。


 早く、なるべく早く小公爵夫人として彼女がこの城で胸をはって楽しく朗らかに生きていけるようにと、願うばかりだ。



 ━━あ、そうだ。

 魔物退治の出発前にエリアナを明日の朝食後にでも図書室に案内してやらないと。

 

 ついでに朝になったらバルコニーにオレンジも置いておこう。

 私が小鳥の食事風景を見れなくても、小鳥が美味しいものを食べて、ご機嫌になればそれもまたよしだ。









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