第6話 特殊な権能

 お城に戻って来ました。


 そしてすぐに家令に公爵家の方達の誕生日などを聞き、日記に書き記しました。


 でも誕生日プレゼントを公爵様の小切手で買うのは微妙かもしれません。

 せめて材料だけ買ってケーキを手作りするとか、刺繍を入れた何かを作るとか。


 それなら、プレゼントとして有効かもしれません。

 本当は私が自分でお金を稼げればいいのですが……。

 公爵家の嫁としては難しいところです。


 * * *


 晩餐にはケビン様もなんとか帰って来れたようです。 



「港に行って魔昆虫を探させたら輸入木材に穴開けて巣を作って入り込んだやつがいたみたいだ」

「木材の検品がザルすぎるな、危険な虫なので輸入元の商会には苦情を入れておく」

「兄上、港まで走った俺にご褒美は?」


「俺のデザートのプディングをやろう」

「子どもの使いかよぉ!」

「ケビン! 言葉使いをきちんとしなさい!」

「はい、すみません母上」



「コホン。ところで皇太子殿下から花祭りの招待状が当家に届いている」


 不意に口を開いた公爵様に視線が一斉に集まります。



「ああ、この季節は恒例でありますわね。エリアナ、ドレスとジュエリーは買えたのよね?」


「は、はい。あの私もなんでしょうか?」


 デビュタントも結婚式も挙げてない新参なのに。



「もちろんだ、というか、ずっと婚約も結婚も拒み続けた長男の急な結婚に興味津々のようだぞ、わざわざ移動スクロールもつけてくださってるし、ほら、こちらはエリアナ宛の招待状だ」



 !?

 メイドが公爵様から手紙を受け取って私に渡してくれました。

 なんか高そうな紋章入りの封がされています!



「俺の、いえ、私のエリアナに皇太子が興味があるのは不愉快ではありますが……」

「え!?」

「ずっと屋敷から出られなかったのなら、祭りには……行きたいだろう?」


 旦那様が、私に気を使ってくださってるようです!

 お優しい!



「そうですね、お祭りには行った事が無いので……」


 できれば行きたいです。

 花祭りならきっと綺麗でしょうし。



「では、王都の花祭りに参加するか?」

「いいのですか?」


「まあ、皇太子の誘いを断るのは普通に感じが悪いからな、仕方ないとも言えるし。

個人的には君を人に見せたくないような、見せびらかしたいような二つの心がせめぎ合っている」


 別に自慢できるような嫁では無いので旦那様の反応は一部おかしいような気はするのですけど、優しさを感じます。

 私にお祭りを見せてくれあげたいという気持ちが嬉しいです。


 公爵様と奥様はそうそう領地を空にできないので、お留守番らしいです。


 なので小公爵の旦那様が代表で行きます。

 私も一緒に。


 弟君はアカデミーの友達とお祭で会う予定がそもそもあるそうです。


 ところで食卓には美味しそうなバゲットと辛そうな味付けの赤い魚卵がありました。

 魚卵は皆様、きゅうりにつけて食べておられます。


 これは本にあった辛子魚卵というものでは?


 私は夢の中の本で見たとおりに食べてみたいと思ってお行儀が悪いけど、少しだけ離席させて貰い、厨房をお借りしました。


 辛子魚卵らしきものは皮から外しておき、バゲットは縦半分にし、食べやすい大きさに切り、バターは少し加熱して溶かしバターにしたら、おろしにんにく、辛子魚卵の順に加えて都度よく混ぜる。


 バゲットの断面に作った赤い魚卵ソースをたっぷり塗り、オーブンで数分焼く。


 そして最期にドライパセリをかけたら完成。

 一口味見してみたら美味しい!!

 これが、夢にまで見た、辛子魚卵パンというもの!


 そして辛子魚卵パンをトレイに乗せ、いそいそと皆様のいる食堂に戻りました。



「ん? エリアナはその魚卵とパンをアレンジしてきたのか?」

「はい」

「キュウリに塗らずにパンに魚卵をつけたのかい?」

「パンに魚卵を?」


「す、すみません、皆様。以前本で見て……」

「俺もそれ食ってみたい」

「あ、アレンジしたパンはこちらにまだ残っていますのでどうぞ」


 ケビン様から始まって皆様同じように辛子魚卵バゲットにチャレンジしています。


「あ、これは美味いな! 流石エリアナ姉上! 俺、辛いの好きだ!」


 お姉様から姉上になりました。


「本当ね! 美味しいわ。これは新しい発見ね」

「エリアナのおかげだな」

「流石我が妻」



 だ、旦那様達が優しく微笑んでくださったわ!

 読書が役に立ちました!

 実家では寝てばかりのボンクラと言われてましたが!



「ほ、本のおかげですから」

「どこの作者の本だろうか?」


 公爵様に問われました。


「ゆ、夢の中の図書館で見た本で、作者名は忘れました。不思議な知らない文字の本が沢山あるのですが、特別なメガネをかけると自国の文字が浮かび上がって読める様になります」


「それ……もしかして特別な権能ではないかな?」


 公爵様の次に旦那様が私に向き直りました。


「夢の中の図書館なんて意味深だからな、本の他に何かあったか? 人はいたか?」


「天使様が……渡してくださったメガネを借りてかけたら、知らない文字の本でも読めると教えてくださったのです」


「「「「天使!!」」」」


「その話は家の外……他ではしないようにしなさい」


 公爵様の緊張をはらんだ表情が真剣さを伝えてきまして、私は思わず姿勢を正してはいと答えました。


 前の家族にはそもそも話していませんでしたし、

 友達もいませんので……。


「やはり特殊な夢のような気がするからな」

「そうですわね、あなた」


 * *


 その日の晩は図書館のお話しをしたせいか、また眠ると夢の図書館に行けました。

 せっかくなので虫の本を読みました。

 主に害虫の本を。


 領地に何かあった時の為に、その時は役にたちたいと思いましたので。



 そして朝起きたら、旦那様がバルコニーで何かゴソゴソされていました。

 私の部屋と旦那様の部屋は隣同士で、バルコニーでつながっています。


 旦那様は柑橘系の果物を果物ナイフでカットして小皿に入れ、バルコニーの縁に置きました。


 そしてさっとご自分の室内に戻り、カーテンの隙間から外を見ています。


 これは! 鳥さんに餌付けをされてるんですね!

 本当に小動物がお好きで、かわいい事をされています!

 見た目が長身で少し怖い感じのするキリッと精悍な感じの男前なのにギャップが凄いです!



「……小鳥さんは来そうですか?」


 私もササッと旦那様の部屋に入らせていただき、小声でカーテンの裏に潜む旦那様に話しかけましたが、



「そのうち、来てくれるかもしれない……」


 まだだめなんですね……。

 こんなに優しい方なのに小鳥さんは竜族の末裔ほ気配に恐れてあまり近寄っては来ないようです。


 そのうち遊びに来てくれるといいのですが……。

 鳥の囀りは遠くで聞こえるのですけどね……。



「エリアナ、今回の花祭りの旅は急ぐから、皇太子がわざわざ贈ってくれた魔法の移動スクロールを遣って昼には出発する」

「はい」



 とても高価な御品らしいです。

 魔法の移動スクロールというものは。


 新しい場所に行けるのは少し怖いけどやはり、ワクワクします。

 まだ本の中でしか見たことのないような美しい景色を、この目で見たいので。









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