第5話 追加デートのおねだり

 ドレスを買った後に再び馬車へ戻ろうと街道に出たところ、突然の叫び声!



「暴れ馬だ! 気をつけろ!」

「きゃあっ!」

「うわっ!」


 逃げ惑う群衆!

 そして凄い勢いで栗毛の馬が走ってきます!


「はあっ!!」


 私を背にかばった旦那様が、手のひらからオーラの塊のようなものを発し、目前の馬にぶつけました!


 するととたんにドサッと倒れる馬!



「し、死んでしまったのですか? お馬さん……」

「大丈夫だ、気絶させただけだ」

「おっ、こいつのせいだな、馬の足に虫が噛みついてる」


 ケビン様がひょいと己の手でつまみ上げたクワガタと緑色のカナブンをミックスしたような虫を燃やしました。

 というか、虫ごと手が急に燃えています!

 魔法!? 自分の出した炎は熱くないのですか!?



「なんと魔昆虫か、厄介な……どうしてこんなとこまでそいつが」

「羽があるから飛んで来たのでは?」

「これはうちの地域では見ないやつだ。外国からの積荷をすぐに調べさせろ」


「え、兄上まさか俺に言ってます!?」

「そうだ、すぐに積み荷の多い港の検問所に行き、仕事をしろ」

「横暴!」



 文句を言いつつも、ケビン様は何処かに走って行かれました。港でしょうけども。


 これも領地の安全の為でしょう。


「あの、何か私にもお手伝いできることはありませんか?」

「君にできること? では、私と一緒に馬車に乗り、レストランで食事をしてから城に帰ることだ」

 


 それは手伝いとは言わないような?

 あげくに馬車の中で膝の上をトントン叩いております。

 反対側の座席に座った私を見ながら。


「ちがう、そこじゃない、君の席はここだ」

「でも、そこは旦那様のお膝の上です」

「そうだ」


 そうだ!? 臆面もなくそうだと!

 はっ! 分かりました! これは猫扱いです!

 人間は猫に膝に乗られると嬉しいもの!

 本で読みました!


 お買い物の対価に膝に乗れとおっしゃっていますのね!?


 し、仕方ありません、猫なら仕方ないのです。

 小柄であることで今回は助かりました。


 呪いを隠して嫁いだのです。

 ペット扱いでも甘んじて受けなければ!



 私は意を決して旦那様のおひざに乗りました。

 恥ずかしいけど、耐えなければ!


 あっ、旦那様に後ろから抱きしめられました!

 さらに次は頭を撫でてます!

 これは完全に猫を可愛がる仕草!


 にゃんこ撫で撫でです!


 よほど小動物とのスキンシップに飢えておられたんでしょう。

 オーラ一撃で馬を昏倒させる方ですもの。

 それは動物も恐れ慄くでしょう。


 それにしてもあの魔昆虫とは、一体……。

 昆虫系の本は夢の中の図書館でもあまり読んでなかったので、まだ勉強すべきことは多いようです。

 お茶より領地の為になる勉強を優先すべきかもです。妻として……。


 レストランにつくまで私はお膝の上で瞑想しました。

 無になる……無になるのです。



 しばらくしてレストランに到着し、やっと膝から降りることをゆるされました。


 店内に入ると店員さんに窓際の白く美しいテーブルクロスのかかった席に案内され、メニューを開いた旦那様から問われました。



「エリアナは肉と魚はどちらが好きなんだ?」

「食べやすければどちらでも……」



 緊張で粗相をしたくありません。

 細かい作業が無いと助かります。



「魚の骨は少し手間かもしれないな、では柔らかいフィレ肉にしよう」



 よく分からないけど、旦那様の言うとおりにいたします。


 運ばれてきたお肉は柔らかく、噛むとジューシーな肉汁が溢れてきました。

 ソースも美味しかったです。

 日記帳があれば、この日の事を忘れないように書き記せるなと思いました。


 実家にいる時、紙は高級品ですから、文字の練習などの勉強以外に使うことは許されてはいませんでした。


 夢の中の図書館で読んだ内容を書きたくても無理で、何度も脳内で反芻して……。



 食事終わりにおねだりに挑戦です。

 宝石やドレスよりは安いので、がんばります。

 上目遣いでやれと本にありました。

 


「あの、帰りにノートか日記帳などを買える場所に寄りたいのですが」

「ああ! ではこれから雑貨屋に寄ろう!」



 上目遣いのおねだり効果はてきめんのようです。




 そして雑貨屋さんでノートと日記帳とレターセットとかわいいペンとインク等を買わせていただきました。

 店内にはかわいいものが沢山あって目が幸せです。



 帰りの馬車から見た景色も春なので、陽を受けた緑も大変美しく、目に鮮やかでした。


 この美しい自然は、ドレスショップの女性達のように綺麗でも睨んではこないので、ずっと眺めてられます。


 それとレストランまでの行きでお膝の上での撫でなでスキンシップは既に満足されてたようで、帰りは普通に座席に座って戻れてよかったです。

 助かりました。















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