第4話 激しいスキンシップ
「よし、次はドレスショップだ」
「は、はい」
私はどちらかと言うと、食材などを売っている平民が行く市場の方が気になるのですが、旦那様と一緒にそんなにところに行ったら悪目立ちしてしまいます。
歩くと女性が振り返る長身の美形ですから。
ほら、今も馬車乗り場に行く僅かな距離でも女性が思わずといった雰囲気で振り返って見ています。
私が旦那様の背に隠れるようにコソコソと背後について歩いていると、ついにツッコミが入りました。
「エリアナ、何故後ろに? 横にくればいいのに」
「兄上、そこはエスコートでしょう? 手か腕を出さないと」
「あ! ケビン! ついてくるなと言ったのに!」
弟君です! いつの間にか背後に現れました!
「問題なければ見守るだけにするつもりだったんですがね」
「チ、仕方ないな、そら」
旦那様が、手を肘を曲げてアピールしていますが、身長差が!
「あ、駄目だ、それだと身長差があリすぎて義姉上が兄上にぶら下がってるように見えて微妙かも」
弟君が気がついて代弁してくださいました!
そうです! きっとビジュアルがお猿さんに!
「これならどうだ?」
旦那様は今度は手を差し出しました。
手を重ねるエスコート?
かと思いきや、私の手を握ってきました。
こ、これは手つなぎ!!
「まあ、デートならこれでもいいだろう」
どうしましょう!
緊張し過ぎて手に汗をかいたら!
次の店ではきっと手袋を買います!
手つなぎ状態で馬車乗り場につき、ケビン様もついてきました。
同じ馬車に乗り込んで……ご自分はここまでどうやって来られたのでしょうか?
私の向かい側に旦那様とケビン様が横並びに座りつつ、肘や膝をお互いにガッと、ぶつける激しめのスキンシップをしています。
な、仲がおよろしいことで……。
ともあれ、ドレスショップに着きました!
「欲しいものがあれば何でも」
「ありがとうございます! 手袋を買います!」
「ああ、グローブか」
「まあ、可愛らしいお嬢様ですわね。手袋をお求めですか? こちらのレースのグローブはとてもエレガントですよ」
「はい。でもなるべく厚い方が……」
「厚いものですか?
冬ならともかくもうじき夏になりますよ?」
「はっ! もしや兄上と手を繋ぐのが辛くてわざと厚い生地の手袋を!?」
「なに!?」
きゃあ! ケビン様たら、なんて誤解を!
旦那様の顔が一気に青ざめて!
「ち、違います! そういうことではなく!」
「私と手を繋ぐのがそんなに嫌だったのか……」
旦那様は明らかにショックを受けたお顔をしています! 耳が垂れたしょんぼりした犬のように!
「だ、だから緊張して汗をかくのが恥ずかしくて!」
「なんだ、そんな事か……」
旦那様は明らかにほっとしたお顔になりましたが、私はたまらない!
「まあまあ、お嬢様のお顔が薔薇のように真っ赤になって、なんと可憐な……妹君ですか?」
店員さんは旦那様にそう問いかけましたが、
「妻だが!」
などと断言されました。
大真面目なお顔で。
「まあ、失礼しました! なんと愛らしい奥様!とてもお若いので勘違いを」
多分私が小さいから……。
恋人にも妻にも見えなくて妹だと。
どこも似てはいませんから、腹違いの妹に見えたのかもしれません。
「じゃあこのレースのもの数点とそちらの透けていない方の手袋を短いのと長いのを買えばいいだろう」
「は、はい」
とりあえず素肌で接触よりは手汗がごまかせると思いますので。
「すぐお包みしますね」
「まだすぐに着られるドレスも数着買うぞ」
「かしこまりました! こちらへどうぞ」
店員さんに促されるまま、ずんずんと店の奥へ。
何故かソファのある個室に通されました。
そこに続々とドレスが持ち込まれ、カタログも手渡されました。
「すぐに着られるドレスはこのあたりで、こちらはオーダー用のカタログでございます」
「お、オーダーまでは別に」
「サイズが合わないと困るから数着は必要だろう」
そ、そうですか。
確かに言われてみれば……。
「では奥様のお体のサイズを測らせていただきますね」
待って!
旦那様の前で胸囲とかウエストサイズを測るのですか!?
「あ、兄上、私達は出た方がいいかもしれません」
すっくとソファから立ち上がるケビン様。
「ああ、それはそうだな、特にケビンお前な!」
旦那様の裏拳が隣にいた弟君に向かって動きましたが、ケビン様は素早く下がって回避しました。
神回避!
「ハーイハイ! 兄上、暴力は止めてください」
そして私もなんとか旦那様の前での測定は免れました。
助かりました。
ただドレスを新調するだけでこんなにハラハラドキドキするとは。
実家では姉なのに妹のお下がりばかり着ていましたので、今回は新しい、最初から私だけの衣装なので大変恵まれてはいます。
猫の呪いを受けた者はたいてい小柄らしいので、私も妹に身長を抜かされています。
なんとか測定を終え、自分でドレスを選んで個室を出ましたら、旦那様達がキレイなドレスを着た女性客達に囲まれていました。
やはり、他の方の方が旦那様にはお似合いです。
私のようなちんちくりんより……。
「おお、終わったのか?」
「はい……」
普段着にはなるべく宝石の飾りなどついていない洗濯のしやすそうなドレスと、念の為の今日のようなよそ行き用にはレースのキレイなのを一着選びました。
それとやはり洗濯のしやすいブラウスとスカートなども数着。
「あっ」
「失礼、見せてくれ」
「あんっ」
旦那様は店員が抱えてる私の選んだお洋服を見るために女性達を押しのけて進みましたので、女性達にめちゃくちゃにらまれました!
「えっと、あの……」
旦那様のチェックを止めようとしたのですが、
「あー、ほらやっぱり俺の言った通りでしょう」
「ああ、地味なものばかりを選んでいるな」
「サイズはわかったのだろうし、ここから追加で私も選ぶ」
「はい、喜んで!」
私より店員さんが喜んで旦那様に返事をしています!
売り上げが上がるのですから、当然とも言えますが。
「見ろ、この淡いピンクのドレスをエリアナが、着ればまるで春の女神のようではないか?」
「それもそうですが兄上、俺が選んだライトイエローのドレスも
……!?
「まあ、奥様はとても愛されておいでですねぇ」
「ええと、なんなんでしょうね……」
店員さんはそう言いますが、正直戸惑いを隠せません。
呪い持ちを隠して嫁いできた私にこんな……。
お二人は私の為のドレスを手にあーだこーだと楽しそうに議論をしていますが、ペットの首輪を楽しげに選ぶ感覚ではないと言い切れないような気も……?
結局旦那様とケビン様が選んだドレスまで追加されました。
何故、ケビン様までノリノリで……お買い物がお好きなんでしょうか?
支払いの際に私が公爵様から渡された小切手を出そうとすると、旦那様が私を制止し、ご自分で持っている分から払ってしまいます。
私のこの白紙の小切手はいつ使えば……旦那様やご家族のお誕生日プレゼントとかを買えばいいでしょうか?
せめて後で誕生日などを尋ねてみましょう。
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