第28話 島根県立美術館コレクション展

 美術館は横に長い建物だった。入り口から入ると、バーンと広い窓がある。そして、その向こうには日差しに光り輝く宍道湖が広がっている。バスから降りてここに入って来たのは私だけで、非常に空(す)いている。チケットを買ったが、バスの1日乗車券のお陰で割引になり、常設展は240円だった。特別展も勧められたが、唯一私の興味を引かない“写真展”だったので、そちらのチケットは買わなかった。チケットはパソコンでたった今印刷してくれたA4用紙で、QRコードが印字してあった。それを持って螺旋階段を上り、コレクション展の入り口でコードをピッとやった。これ、だいぶ節約されていると思うのだが(チケットをわざわざ作成せず、印刷で済ます)もっと言えば紙に印刷せずとも、スマートフォンに送るなどしてデータだけのやり取りで済ませる方法はないものか。せっかく印刷しても、ちょっと歩いてすぐ用が済んでしまうのだ。紙がもったいないと思ってしまうぞ。もっと言えば、プラスティックの番号札のような物でもいいのではないか?それだと手元に何も残らないからダメなのかな。

 常設展だけでも、色々とあった。特別展をやっている写真家の写真もけっこうあったけど?本当にこの他に特別展があるのか、と疑問だった。

 写真撮影OKの作品は少ないが、その代わりに展示室ごとにカードが置いてあって、自由にお持ちくださいという状態だった。カードには作者や絵の説明、そして絵そのものの写真が載っている。太っ腹だな。さすが県立美術館だけある。思わずほとんどすべての絵のカードをもらってきてしまった。写真が撮れるなら撮っていたであろう気に入った絵は全て。

 “北斎コレクション”と銘打っている程、たくさんの北斎画はなかったが、印象派辺りの絵はけっこうあった。モネの絵もあって嬉しい。だが、モネの絵は遠くから見ると良いのに、今回どうもダメだった。私の視力の問題だろう。今、右目と左目の矯正視力が違い過ぎて、遠くへ行く程右目の方が見えなくなってしまい、遠近感がおかしくなるのだ。やっぱり眼鏡を作り直さないとダメだな。

 一通り見終わり、テラスに出てみた。建物の西端にあるテラス。誰もいない。まだ太陽はけっこう高いところにあり、まぶしい。一応写真は撮ったが、夕日と言うには明る過ぎるし、まだ湖に沈みそうもない。

 テラスから建物内に戻ると、そこに看板があって、北斎ガチャと書いてあった。QRコードを読み込むと、北斎の絵の写真フレームが手に入るらしい。どの絵が来るかは分からないという事だ。やってみると、特別有名な絵ではなかったが、遊女がたくさんいる北斎の絵だった。フレームなので真ん中が開いている。その状態で自撮り写真を撮って保存した。富岳三十六景の有名な絵とかだったら、もっと人に自慢できたのにな。

 1階に降り、美術館の外に出てみた。割と人が出ていた。良い天気で、まぶしい。だが、だいぶ日差しが和らいで、暑くはなかった。すぐ目の前が宍道湖で、水際まで近寄れる。風があるので、海のように波が打ち寄せる。いや、ほとんど海だ。西側の水平線の向こうには何もない。空と湖が接している。海だ。

 横に長い美術館の前を、ずっと歩いて行った。ウサギの置物がたくさんあり、芝生の上に並んでいた。オブジェもあるし、とてもきれいな所だ。でも、日に焼けそう。それでも、バスの時間まではここにいないと。他にやる事もないし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る