第27話 島根県立美術館へ

 16時少し前だった。フロントに行ってレストランの予約をしたいと伝えた。昨日の人とは違う人で、若い男性だった。何時にしますかと聞かれたので、

「今から県立美術館に行こうと思ってるんですけど、2時間もあれば行って帰って来られますかね?」

と聞いた。すると、

「2時間あれば帰って来られます。」

と、そのホテルマンは言った。言い切った。適当だな、と思った。だがまあ、そうなのだろうと思い、18時に予約した。けっこう、私は混乱していた。元々、県立美術館では宍道湖に沈む夕日が見られるという事で、晴れている今日、夕方にそこへ行こうと思ったのだ。しかし、日没は18時半頃だ。だとすれば、美術館に18時半過ぎまでいて、それからホテルに戻って食事にするのが良さそうだ。しかし、あまり遅いのはどうなのか、と思った。レストランも混みそうだし、その後のお風呂も混みそうだ。早めに終えて部屋でゆっくりしたい。それで最後まで迷っていたのだ。結局、ここのレストランは最上階にあってレイクビューが売りだから、そのレストランから夕陽が見えるのではないか、と思った。それならば18時半頃にレストランにいるのがいい。だから、18時の予約をしようと思ったのだ。18時の枠は空(あ)いているという事なので、予約をした。

 レイクラインバスで美術館に行こうと思っていた。レイクラインバスの時刻表は持っているのだが、バス停の名前を見てもそれがどこにあるのか分からない。先程の松江しんじ湖温泉駅の前ならば、場所も分かりやすいし近い。部屋で時刻表を見てあと7分くらいだと分かっている。急いで行こう、という事でホテルを出て歩いて行った。

 ところが、駅が視野に入った頃、レイクラインバスがバスターミナルを出ていくのが見えた。おかしい、あのバスは30分に1本しかないはずなのに。

 バス停に着いて、時刻表を見た。どうやら勘違いをしていたらしい。16:02だと思っていたのに、15:55だった。今、それが行ってしまったのだ。次にバスが来るのは16:25だ。ほらね、やっぱり30分に1本でしょ。うーん、仕方がない。このバス停で待つことにしよう。急がば回れだ。

 夕方になるとスマホのバッテリーが少なくなってくる。旅行中は写真を撮ったり、地図検索をしたりして、1日中使っているから充電が1日持たないのだ。で、モバイルバッテリーを持っている。これからまだ写真を撮るだろうから、今の内に充電しておこう。

 私の持っているモバイルバッテリーは古い。最近あまり使っていなかった。4回分充電できるのだが、昨日の夕方充電したら、一気に2回分喪失してしまった。油断して、モバイルバッテリー用の充電コードは持って来なかった。明日もあることだし、今日は半分だけ充電しようと思った。夜になればホテルの部屋で直接スマホの充電ができるのだから。

 というわけで、今はあまりスマホを使わない方がいい。よって、今回の旅で初めて、文庫本を取り出した。どうも旅行中というのは、次にどうするかなど、あれこれ考える事があって気が散ってしまい、新聞は読めても小説を読む気にはなれないものだ。だが、実際に読み始めたらこれがまた良い。むしろ落ち着くし、待ち時間が苦にならない。目もそれほど疲れないし。

 バスが時刻表通りにやってきた。乗った。そして、思い知った。この周遊バスは、松江しんじ湖温泉駅を出た後、ぐるっと回ってから、なんと私が泊まっているホテルのすぐ前の公園にも停まるのだった。そして、その後昨日下りたカラコロ工房前を通った。なんという事だ。1本前のバスを乗り逃してしまったが、その後、歩いてカラコロ工房の方へ回れば、充分乗れたはずだった。そもそも、駅まで行かずにホテル前の公園のバス停から乗れば良かったのだが。おぉ、ホテルマンはこのバス停から乗るものと思っていたのだろうな。でも、どこにバス停があるのかなんて知らないのだ。地図にも細かく載っていないし、路線図上のバス停の正確な場所は分からないし。バスは難しい。やっと分かってきた頃には、旅行も終わりなのだ。まだ終わっていないけれど。

 16:40に島根県立美術館に到着した。日付のところを削っておいた1日乗車券を見せて降りた。これ、3枚もらったけれども、1日目はもらっただけで削らずに降りたから、本当は2枚しか必要なかった。つまり、結局昨日はバスにあまり乗っていないという事なのだな。やはり元を取るのは難しいのかもしれない。

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