第26話 我慢の一畑電車

 出雲大社駅へ戻ってきた。今日はこの通りをずいぶん行き来したものだ。14時半の電車に乗る前に、駅のトイレに行った。用を済ませて手を洗っている時に、ハッとするほどカッコいい人が入ってきた。スポーティーな服装をしていて短髪で、一瞬男性かなと思ってしまったが、いやいや女性だよな、と思い直した。何しろここは女子トイレだから。それだけならば全然大した事ではなかったのだが、この後にちょっとした事件が起こった。高齢の女性が私を追い越してトイレから出ようとして、このカッコいい女性とすれ違ったのだが、

「ここ女子トイレだよ。」

と言ったのだ。ギョッとした。言われた女性は、

「私、女です。」

と言った。高齢女性は何も言っていなかったように思う。そのまま出て行ってしまったので聞こえなかっただけかもしれないが。どんな顔をしたのだろう。男子トイレと間違えたのかと思って、親切心で言ったのだろうが……もう一歩思慮が足りなかったか。どうしてもう一歩、もしかしたら?と考えないで言葉にしてしまうのだろう。年を取るとそうなってしまうものなのか。

 さて、一畑電車に乗った。これで松江しんじ湖温泉駅へ向かう。さすがに1時間に1本なので混んでいる。座席が空(あ)いていないくらいだったので、コーヒー片手にというのは良くなかったかもしれない。いや、実際スタバのコーヒーを持って乗っている女性が1人いたのだが。

 座って乗っていると、隣のご夫婦が何やらそわそわし始めた。後ろの窓の外をしきりに気にしている。もうすぐだ、とか何とか。そして、2人で写真をぞれぞれ撮っていた。私は自分の隣に座った女性のスマホ画面を凝視してしまった。何を撮ったか気になるから。

 それは、鳥居がたくさん並んでいる写真だった。電車の中から一瞬、すべての鳥居を写真に収める事のできるポイントがあるのだ。隣の人はバッチリ写真に収められていた。赤い鳥居が奥へ奥へと連なっている写真になっている。この鳥居は「粟津稲荷神社」だ。ガイドブックに載っていた。うっかりしていた。私も写真を撮ればよかったか。

 それにしても、約1時間の乗車時間だ。だんだんトイレに行きたくなってきた。暑くて汗もかいたが、結局アイスコーヒーは余計だった。しかもスタバの2階は涼しかったから。カフェインレスでも水分を多く取れば、トイレにも行きたくなる。これがカフェイン有だったら1時間も我慢できなかっただろう。まだそれほど切羽詰まった状態ではない。

 夕飯は、やはりホテルのビュッフェレストランにしようと決めつつあった。もちろん、予約で埋まっていたらダメなのだが。この後、島根県立美術館に行こうと思っているのだが、どのみち荷物が多くて直接行くのは無理なので、一度ホテルに帰ろうと思った。ホテルに戻って買ったお土産を部屋に置き、フロントでレストランの予約をして、それから出かければいい。そのような計画を練った。

 松江しんじ湖温泉駅に着いた。トイレに行きたいので急いでホテルに戻ろうとして、うっかり道を間違えた。何故だ。向かう方向を完全に間違えて、だんだん知らない道になってきたので地図検索をして、戻ってきた。やれやれ。

 荷物は重たいし、トイレには行きたいし、まだまだ暑いし、必死にホテルに戻った。そしてけっこう慌てて部屋に駆け込んだ。セーフ。そして、お土産を部屋に置く。そうそう、漬物は冷蔵庫に入れなければ。保冷剤と共に保冷パックに入れてあったものを開けた。すると、見知らぬ赤い漬物が入っていた。サービスというのはこれの事だったのか。大根の梅酢漬けだった。それにしても、やっぱりビールで酔っていたのだろうか。普通、真ん中の日に要冷蔵の物など買わないのに。保冷剤は明日には溶けてしまうだろうし、あまり冷たい状態で家に持って帰れるとも思えない。真夏だったらアウトだっただろう。

 漬物を部屋の冷蔵庫に入れ、この後どうするかを考えた。けっこう迷っていた。「夕日をどこで見るか」問題があったから。でも、バスの時間もあるのであまりゆっくりもしていられない。とにかく、ビュッフェレストランに行く事は決めよう。

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