第3話 前日

 出発日前日になった。決めておかないようにしようと思っていても、あれこれ急に調べだしたりするのは、やっぱり私の質だから仕方がない。

 実は、スターバックスコーヒー(スタバ)のチケットを持っていた。私は滅多に外でお茶したり外食したりしないので、期限が切れる前に使うには、わざわざスタバへ行かないといけないな、と思っていた。旅行に行って外食するなら、そのタイミングでスタバのチケットを使えばいい。いや、使うべきだ。

 最初は帰る日(3日目)の朝食にしようか、と考えていた。松江駅にスタバがある事を突き止めたのだ。しかし、スーツケースを持ったままでいいのか、時間的にどうか、などと不安に思っていたら、ふと前日になって思いついた。

「羽田空港にもスタバがあるんじゃない?」

と。調べたら、あった。これだ。朝はそれなりに早いので、朝食を食べずに家を出て、スタバで朝食を買って、搭乗を待つ間に食べようではないか。すごくいい事を思いついたと思った。

 だが、これがけっこう大変な事になるのだ。それは追々語ろう。

 衣類を選ぶにも、直前まで迷った。3日目の天気予報を見ると、松江はどうやら気温が低くなるらしい。2日目が暑くて、3日目が寒い。松江の気温は東京と変わらないが、天気は西から崩れるので、1日早く雨が降ったり気温が変わったりする。

 どうしようか。気温は20度程度のようだが、もしかしたらもっと寒くなるかもしれない。一応カイロを持っていくか。下着よりも上に着るものの方が、脱着しやすいか。迷った挙句、カイロと毛糸のベストを入れた。

 それから、機内持ち込み可能な大きさのスーツケースを持っていくのだが、ふと「機内持ち込み荷物は1人2つまで」というルールを思い出した。家族で行くと、みんなが1つだから、私が3つ持っていても大丈夫だったりするが、1人だと数は明らかだ。実は、ポーチに財布などを入れ、上着や傘などをトートバッグに入れて、2つを持ち歩こうとしていた。だが、機内にスーツケースを持ち込むとなると、合計3つになってしまう。それで、乗り込む時などにはトートバッグにポーチを無理やり入れればいいか……と考えた。が、ふと思いついた。

「やっぱり、スーツケースは預けた方がいいんじゃないか?」

と。そうすれば、空港内のトイレにスーツケースを持ち込む必要もない。そもそも機内の狭い通路を通る際にもあれは邪魔だし、上の棚に乗せるのも一苦労だ。それなら、最初から預けてしまった方が楽ではないか。なぜ預けないつもりだったかと言えば、飛行機を降りた後に、スーツケースが出てくるのを待たなければならないのが嫌だったからだ。でも、オフシーズンにそれほど混み合うわけでもないし、国内線なら機内に持ち込む人が多いから、それほど荷物が出てくるまでに時間もかからないだろう。

 とすれば、白いスーツケースに何か目立つ目印が必要だ。赤いハンカチを結ぼうか。

 と思ったが、赤いハンカチは古くなって色あせている。じゃあ、こっちの花柄の新しいハンカチにしよう。そう思って結んでいると、次男が帰ってきた。それを見せると、

「うーん、ちょっとおばさん感が……。」

確かに、そんな気がしてきた。おばさん感が出ている。花柄が良くないのだろうか。ならば、やっぱり赤いハンカチの方がいいだろうか。赤いハンカチを出してきて、持ち手のところに結んだ。だが、そのままだとスーツケースを横に寝かせた時に地面についてしまう。

「どうにか、下につかないようにできないかな。」

そう言ってぐちゃぐちゃハンカチをいじっていると、次男が、

「ちょっと貸して。」

と言って、一度結んだハンカチの先を束ねてひねり、輪っかを作って先っぽを通して……適当にやってくれたのだが、それがなかなか可愛いではないか!これはいいぞ。でも、自分では二度と同じように結べない気がする。

「よし、このままで行こう。ずっと、これを付けたままにする。」

決定。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る