第10話 接触

 昼休みの千佳の涙をきっかけに、影人の胸中には気まずさが渦巻く。


 千佳の詩型が視界に入るだけで、心理的負担が増加する。


 だが自分から謝罪するつもりは更々ない。ただ事実を告げただけなのだから。


 後輩からは謝罪を薦められたが、知ったことではない。好きなようにやらせて貰う。


 千佳が視界に入っても、咄嗟に目を逸らす。決して目を合わせる雰囲気を作らない。


 そうこうしている内に放課後に突入する。昨日と同じように、影人は誰よりも速く帰りの支度を済ませる。


 誰にも気づかれないように、教室の戸から出るように試みる。ようやく解放される。安堵感が影人の心を支配する。


 いつも通りのルートで昇降口に到着する。


「ごめん! ちょっといいかな? 」


 靴に履き替えようとするタイミングで、ある女子生徒が影人に声を掛ける。


 怠そうに視線を走らせる影人。


 目の前には息を荒らす千佳が移る。おそらく走って追い掛けたのだろう。


「俺に絡むなときつく伝えたはずだが? 」


 会話を無駄に続けたくないため、影人は冷たい態度を貫く。


「…うん。知ってる。でも…。胸元君に聞いて欲しい話があるの。だから、もし良かったら聞いてくれない? 」


「どんな話だ? 」


「私の元友達の話。親友と呼んでいた大事な友達。あと私の話も含まれてる」


「…分かった。聞くだけ聞く。だが、つまらない話であればすぐに話を切り上げろ。その点、問題ないか? 」


「…うん。いいよ」


 影人に倣い、千佳も上履きからローファーに履き替える。


 帰路に就く影人を軽いダッシュで追い掛ける。追い着くと隣を歩く。


「それで? 話とは? 」


 前を向きながら、影人は催促する。


「うん。実はね。私ね。中学時代に小学校から仲の良かった親友を失ったんだ。大好きだった親友をね」

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