第9話 涙
「う~~ん。終わったね〜~。結構長かったね」
実行委員の集まりが終了し、教室に戻る途中の影人。
隣には当たり前のように伸びをする千佳の姿が見える。
実行委員の集まりは主に球技大会のスケジュールと準備に関する内容だった。実行委員長が配布したパイフレットに沿い、一方的に説明を展開していた。
影人にとって非常に退屈な時間であった。
「ちょっといいか? 」
タイミングを見計らい昇降口が見えた辺りで、影人は足を止める。丁度、廊下の中央で止まる形となる。
「いいけど。いきなりどうしたの? 」
影人に倣い、千佳も立ち止まる。まだ影人の意図に気付いた様子は無い。
影人と千佳が向かい合う。
「はぁぁ~~」
大きく息を吐き、影人は準備のための呼吸を整える。
(こいつには正直に言わないと分からないよな)
「悪いけど。最近お前うざいんだよ!! いちいち事ある毎に俺に絡んでくるなよ」
キッと鋭い眼光で千佳を睨み付ける影人。まるで威嚇するように。
「っ…。私は孤立した胸元君が放っておかなくて…」
先ほどまでの様子とは打って変わり、千佳の顔が強張る。恐怖から逃げるように後ずさりもする。
「それに。…俺が多月たち陽キャの集団に良いように利用されていた時は黙って見ていたくせに。どういう風の吹き回しだよ。教えてくれよ」
影人は激しく捲し立てる。
一方、千佳は全く言い返せず、強く口を噤む。
「どうせ自分が可愛くて保身になってたんだろ。だから何もしなかった。違うか? どういう理由で善人を装って俺に関わってるかは知らないが。本当に勘弁してくれ」
ここまでいったら止まらない。溜まった鬱憤を纏めて吐き出す。
ポロッ。
1粒の涙が千佳の頬をゆっくり流れる。
「は…」
目の前の衝撃的な出来事に、影人は絶句する。
「え…。え…」
涙を抑えようと何度も腕で拭う千佳。だが、1度流れた涙は止まることを知らない。溢れるように腕を抜け、目から頬を進む。
「どうして…。私…泣いてるんだろ…。うぅ~~。ごめんなさい~~」
顔をくしゃくしゃにし、大粒の涙を撒き散らしながら、千佳は逃げるように立ち去ってしまった。
「……」
呆然とする影人だけが取り残された。
「あらら。先輩。女の子を泣かすなんて。悪い子ですね」
昇降口の靴箱から後輩が姿を現す。
「…盗み聞きしてたのか。趣味が悪いな」
「どっちが趣味が悪いんだか。自分自身が分かってるでしょ? 」
「……うるさい」
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