第8話 理解に苦しむ

 あっという間に時間は過ぎ、昼休みの時間が訪れる。


「さっ! 時間だよ! 実行委員の集まりに行こ? 」


 なぜか嬉しそうに影人の席を訪れる千佳。手には黒の弁当袋を持つ。


「…」


 無言を貫く影人。


 千佳から視線を外し、弁当袋を掴んでから立ち上がる。


 会話をせずに、千佳の真横を通過し、教室を後にする。


「あ! ま、待ってよ~」


 影人の冷たい態度にめげずに、千佳は後を追う。駆け足で影人に追い付く。


「どうしてあんなことをした? 」


 恐怖を与えるため、影人は敢えて低い声を発する。内心イライラしている証拠だ。


「…それは。本当にごめん。勝手なことして」


 ショボンッと歩きながら俯く千佳。


「謝罪は求めていない。理由を聞いているんだ」


 気など遣わない影人。追い込むように問い詰める。


「前にも言ったけど。私は孤立するクラスメイトを放って置けない。特に胸元君は。何か危なくて」


 俯いた顔を上げ、真っ直ぐな瞳を影人に向ける千佳。強い意志が千佳の目に宿る。


「…ちっ。勝手にすれば」


「うん。勝手にする」


 2人の間で無言の空間が拡がる。


 千佳は影人の隣を歩き続ける。


(何なんだ。こいつは)


 一瞬だけ陽の感情が影人の心を支配する。ポツンッと芽生えた感情だった。


 しかし、自力で感情を消し去るのだった。

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