第7話 実行委員

 5月の初旬。


 影人の学校では全学年を巻き込んだ球技大会という行事が有る。球技大会の開催まで1週間を切る。


 球技大会ではクラスから1人以上の実行委員が必要である。


 その実行委員を決めるための1時間目の授業が始まる。


「毎年恒例の実行委員だが。誰か居ないか? 」


 教壇に立ち、生徒達からの積極的な挙手を求める。


 シ~~ン。


 反応なし。頑なに手を挙げようとしない。担任と目すら合わせようとしない。


「う~~ん。1時間目の終わりまでに決めないとだな。今日の昼休みの集まりにも参加して貰う必要が有るしな」


 担任が頭を悩ませる。


 未だに誰も立候補しない。教室には重い静寂が拡がる。


「先生! 推薦とか有りですか」


 重い静寂を破るように、智介が手を挙げる。顔には二ヤついた笑みが張り付く。何か企む表情だ。


「あ、ああ。それは構わんが」


 担任は首を縦に振る。


「俺はですね。胸元君が実行委員に適任だと思います。陰キャでボッチで暇そうな胸元君が」


 皆の視線が集中するように、智介は意図的に影人の方を指差す。


「おい! そんな言い方はないだろ」


 軽くたしなめる担任。決してきつく叱りはしない。


「皆も胸元が適任だと思うよなぁ? 」


 他のクラスメイト達の共感を得ようと試みる智介。


「本当にな! 暇人にはお似合いだぜ!! 」


「智介の言う通りだぜ! 」


 智介と仲の良い陽キャ達は賛成の意を示す。


「「「「「「…」」」」」」


 他のクラスメイト達も無言の肯定を貫く。


「クラスメイト達は、お前が相応しいってさ」


 智介は楽しそうに影人を挑発する。


 断りづらい雰囲気が教室に漂う。


(この!! やるわけないだろ。面倒くさい)


 強く反論しようと、影人はイスから腰を浮かせる。


 陽キャ達の好きにはさせない。そのための行動に出る。


「先生、ちょっといいですか」


 影人の行動を制止させるように、右手を挙げて発言する千佳。


「実行委員は1人じゃなくてもいいはずですよね? 胸元君1人に任せるのは荷が重すぎると思います。そこで学級委員の私も一緒に実行委員を務めても良いですか? 」


「は!? 」


 突然の千佳の提案に智介は虚を突かれる。


 先ほど前の余裕のあった笑みが一瞬で崩壊する。


「それは構わないが。胸元の方は大丈夫なのか? 」


(言いわけないだろ)


「何を勝手に・・・」


 異議を唱えるため、影人は両足に力を込める。


「よろしくね!! 胸元君!! 」


 影人の気持ちを見透かしたように、千佳は上機嫌に片目をウィンクする。目からは複数の星が散る。


 千佳の奇妙な言動に翻弄され、反論の内容が影人の頭から飛んでしまった。


「…お、おう」

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