第4話 衝突

 次の休み時間。


 読書に集中しようと学生カバンからラノベを取り出す影人。


「ちょっと。いいかな」


 ラノベを開こうとしたタイミングで、千佳が緊張した面持ちで影人の席を訪れる。


「なに? 今から本を読もうと思ったんだけど」


 明らかに嫌悪感を醸し出す影人。


「それは申し訳ないけど。学級委員として孤立するクラスメイトは放っておけないよ」


「それって正義感ってやつ? それとも情け? 」


(どうせ自分のための行動なんだろうな)


「そ、そんなことない!! 私は胸元君が心配なんだよ。本当だよ。だから一緒に居ようと思って。お話でも出来ないかなって」


 ラノベから少しだけ意識を逸らし、影人は千佳の顔を覗き見る。


 真剣な顔だった。嘘を吐いている気配も無い。


 だが、優しく対応する気は更々ない。そんな行動など不要だ。


「勝手にすれば。本読みながらの対応で良ければだけどね」


 再びラノベに意識を戻し、千佳を見向きもしない影人。


「う、うん。そうする」


 影人の冷たい態度に一瞬だけ悲しい顔を浮かべる千佳。だが、すぐに悲しい表情を消し去る。


「1つ気になってたんだけど。胸元君が読んでる本。ラノベだっけ? 面白いの? 私ラノベに関する知識がほとんど無くて」


「…普通。それとラノベについて知らないなら調べたら。今の時代スマホっていう便利な機会が有るんだから」


 ラノベを読み続け、影人は千佳に対する無関心を貫く。全く相手にする気が見えない。


「おい…。流石に冷たすぎだろ。調子に乗るなよ陰キャが!! 」


 陽キャのリーダーの智介が代表して影人に詰め寄る。陽キャ達の思いを背負っているかのように。


 そして、智介は影人の胸ぐらを強引に掴む。影人のカッターシャツが上に傾くように伸び、身体も少し浮く。


「ちょ!? ちょっとやめてよ!! 乱暴はダメだよ多月君」


 千佳が注意して止めに入る。


「戸上は良いのかよ。あんな適当な対応されて。腹立たないのか? こんな陰キャに偉そうな態度されて」


 苛立ちを抑えられない智介。怒りをぶつけるように、影人の胸ぐらを強く握る。


「私は全く気にしてない。適当な対応を受ける込みで話し掛けてるんだから」


 言い返すような口調で捲し立てる千佳。言葉には気持ちが籠っていた。


「…だってさ。だから、さっさと放せ」


 影人は強引に智介の手を振り払う。


 影人の胸ぐらから智介の手が放れる。


「っ。て、てめぇ! 」


 怒りを隠せず、表面に露にする智介。鋭い眼光で影人を睨み付ける。


 智介のサポートに入るように、他の陽キャ達もリーダーの下に集合する。


 陽キャ達に対抗するように、影人はゆっくり席から立ち上がる。


 影人と智介を中心とした陽キャ達が対峙する構図が完成する。


「喧嘩はやめて!! 」


 影人と陽キャ達の間に両腕を拡げて割って入る千佳。


 千佳を通過して、影人と陽キャ達の視線が衝突する。


 こんな態度を取る影人だが、未だに陽キャ達に対する恐怖は消えていない。クラスメイト達に嫌われたくない気持ちも僅かに残る。


 だが後戻りは不可能。既に多くの人達から嫌われた。好感度を戻すことは困難だ。


「はぁぁ~。もう、いいや」


 陽キャとの対峙を進んで中断し、影人は自分の席に腰を下ろす。


 机に開いたままで置いたラノベを手に取り、再びラノベの文章を読み始める。実際に、このような空気を読めない行動を取るまでに、かなりの勇気を要した。


「「「「……」」」」


 陽キャ達は度肝を抜かれたように、呆気に取られる。当然、開いた口も塞がらない。だらしなく開いている。


 キーーンコーーンカーーンコーーン。


 休み時間終了のチャイムが学校中に鳴り響く。教室内にも大きく響き渡る。


 智介達もチャイムの音で、ようやく我に返る。


「くそ!! 覚えてろよ~!! 」


 悔しそうに自分達の席の帰って行った。

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