第7話ー③「親切」

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 今日は9月に行われる体育祭の出場競技決めの日である。 

 紅組と白組というシンプルな構図で、クラス毎で決定される。 

 因みに我々、2年1組は紅組である。 

 運動神経が無いわけではないが、運動を好まない私にとって、この時期は苦痛以外の何物でもなかった。 

 来年からは、春開催という噂が流れているが、真偽は定かではない。


 「なお、暁と緋村は強制参加らしいぞ、頑張れ」 

 担任の石倉先生は、ぼやくように、その事実を2人に伝えた。


 「先生、それって、2人は出場決定ってことですか?」 

 加納さんの言葉に、石倉先生はそうそうととてもにこやかな表情で、話を続けた。


 「全国レベルのぉ・・・、部長様もいらっしゃいますからねぇ~」 

 石倉先生の笑みは何処か不敵で、何とも大人げないように見えた。


 「最初から、そのつもりですから」


 おーと歓声で教室中がどよめいた。そりゃそうだ、全国出場選手だもんな。 

 私には、関係ないけれど・・・・。


 「因みにクラス対抗男女混合リレーだから、緋村君とせなっち、後は」


 「勿論、わたくしが参りますわ!」 

 矢車さんはいきなり、手を挙げた。


 「他にやりたい人いませんかぁ~?」


 「加納さん、わたくしの扱い、酷くありません?」 

 加納さんは辛辣そうな表情を浮かべていた。


 「えぇ・・・。いいけど、勝ってよ・・・」


 「わたくし、彼女に何か、いけないこと、言ってしまいましたか?」


 私に意見を求めるなという視線で、矢車さんを睨んだ。


 順調に競技が決まり、私は出来ることなら、サボりたかったが、そういうわけにも行かず。出来れば、玉入れをやって、後はクーラーの効いた部屋で引きこもりたいと言うのが、本音だった。


 「次は二人三脚のメンバーを決めます。学年対抗なんで、各教室二組。男女は問わないそうです。誰かやりたい人いますか?」 

 加納さんの進行の下、誰もが手をあげることを躊躇う中、間宮さんがいきなり、手を挙げた。


 「はい。私、羽月さんと一緒にやりたいです」


 その言葉に教室が一気に冷え込んだ。


 「お、おい、間宮。無理すんな。お前は見学でも」 

 流石の石倉先生も、立ち上がり、間宮さんを静止した。


 「もしもの場合に備えて、暁さんを推薦します。如何でしょうか」 

 担任の言葉に目を向けず、間宮さんは再びとんでもない言葉を口にした。


 間宮さんは席に座り、咳き込み始めた。少し無理をしたように思えた。


 「間宮さん、その体で二人三脚は無茶だよ」


 「そうか゛も゛し゛れ゛な゛い゛」 

 間宮さんの目的は分からない。だが、ここで間宮さんの意志を裏切ることも出来ない。 それはすなわち、彼女の意志を裏切るに等しい行為だから。 

 しかし、私自身、これに賛同できる程の胆力も無ければ、行動力も無い。  


 「間宮さんの言う通り、暁ちゃんと秀才様で、走るべきだと思いまーす」


 「それな。いいコンビだし、何より、デキてるしな」


 「ヒューヒュー!賛成賛成!やっちゃえやっちゃえ!」


 「チョー面白そう。きゃはははははは」


 空気が悪くなってきた。夏祭りの一件が、此処まで尾を引いていたなんて。こんな形で露見したことが、私の心を激しく貶めた。 

 況してや、信じていた間宮さんがどうしてこんなことを・・・。


 「静粛に!」 

 加納さんの言葉で、教室は静まり返った。聞こえるのは、間宮さんのぜーぜーという音を残して。


 「そんなノリで、決められることじゃないの。息ピッタリで歩くのだって、況してや強制するもんでもないし」 


 「あたし、やりたいです」 

 暁の天にも届きそうな言葉が、教室をこだました。


 「せなっち、本気?」


 「妃夜はどうなの?」 

 暁は真剣そうな表情で、私を見つめていた。


 しかし、私の答えは決まっていた。


 「お断り致します」


 えぇーと教室中がブーイングの嵐だった。

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