第7話ー②「親切」

 3

 矢車さんの弁当はサンドイッチのオシャレなランチボックス、

 一方の間宮さんは愛の詰まったコンパクトなお弁当だった。 

 私の弁当も負けたわけでは無いが、張り合っても仕方ないと思い、頭を弁当に向けた。


 「矢車さんのお弁当って、いつもこうなんですか?とても美味しそう」


 「そうでしょ、そうでしょ。いつも、お手伝いさんがわたくしの為に命がけで制作してくれますの」


 「凄い、矢車さんちって、お手伝いさんがいるの。ブルジョアね」


 「そういう間宮さんだって、ハンバーグなんて、とても豪勢ですわ」


 「そんなこと無いよぉ。普通の一般的なお弁当です」


 「あらあら、まぁまぁ。あははははは」


 完全に2人のペースに流され、私は黙々と母の弁当を口にしていた。 

 もう、帰れよと突っ込みたくなる気持ちを抑えていた時だった。


 「ごめんなさい、羽月さん。暁さんと何かあったの?」


 「そうですわ。晴那があなたに絡まないなんて、何かおかしいですわ」


 「そうよそうよ。2人ともいい感じだったじゃない!なんで、こんなことに?」


 間宮さんが、何故それを?と言葉にしようとした際、私は口にしようとした直後、彼女は何かを察したのか、話をすり替えた。


 「ほら、2人とも、保健室でああだこうだ言ってたし。きっと、いい友達になるんだろうなって、思ってたからさ」


 「そうなんです。今はわたくしも羽月さんのお友達ですもの」


 「凄いね、羽月さん。やっぱり、あなたは・・・」


 物憂げな表情を浮かべた間宮さんだったが、何事も無かったように、手を拭き、卵焼きに箸を向けようとしていた。


 「私は」


 その言葉を口にした瞬間、不良が扉を仰々しい音を立てて、いつもの取り巻きを引き連れて来た。


 「邪魔するぜ!」


 「お邪魔するっすわ」


 「フン」


 間宮さんは矢車さんに助けを求めるように、話しかけていた。


 「あの人達、誰ですか?」


 「気にしなくてもいいですわ、間宮さん。バカトリオですから」 

 何食わぬ表情で話す矢車さんに対し、間宮さんはバカトリオかぁと微笑みながら、歓談を続けていた。


 「受け入れるな、誰がボケカスバカトリオじゃあ!」


 「中さん、其処まで言ってないっスわ」  

 一通りのやり取りが終わった所で、矢車さんは不良に視線を合わせた。


 「ご用件は何ですの?まさか、また喧嘩なんて。野蛮の極みですわ」


 「ちげーよ。それとてめぇとは話してねぇんだよ、お嬢様!」


 「あら、わたくしの気品あふれるオーラを気付いてくれましたの。大変嬉しいですわ」 恐らく不良の悪口に全く怯まない矢車さんのメンタルは鬼のように、堅かった。


 「姉さん、こいつと話しても、埒が明かねぇよ。今はそれよりも」


 「そうだった、わりぃわりぃ。おい、しゅ・・・。はじゅこ!」


 はじゅこ?私は下向きながら、無視を貫いた。


 「姉さんが苗字呼び捨て・・・だと?」


 「いや、普通じゃないっすか?」


 こいつらのやり取りに付き合い切れない私は弁当箱を片付け、図書室に向かう為の準備を始めた。


 「待ってくれ、羽月。昨日は悪かった。あんたとは戦わないからさ。許してくれよ」


 どうやら、話が通じないバカではなさそうだ。 

 だが、会わないと言ったのに、会って来る。何より、あのことを許した覚えはない。 

 私はごちそうさまと2人に声を掛け、席を戻した。


 「あんたには、立会人になって欲しい。アタシは決めたんだ。あいつとの因縁にケリをつけるって。だから、ついてきてくれ。あいつを変えたあんたが必要なんだ」


 「くだらない」 

 その言葉は、私でも無ければ、矢車さんでも無く、間宮さんからの言葉だった。 その様子を私は二度見してしまった。


 「ま・・・間宮さん?」


 「ど、どうしましたの、間宮さん?」


 私たちの静止を振り切り、間宮さんは立ち上がり、不良に近づいて来た。


 「な、誰だてめぇ・・・やんのか、こらぁ」


 「姉さん、相手が悪い。謝ってくれ」


 「どういう意味っすか、依?」 

 ざわつく不良を後目に、間宮さんは薄ら笑みを浮かべ、見下すように、不良たちを見つめていた。


 「自分達が何も出来ないことをいいことに、他人を巻き込んで言いたい放題やるなんて。言われた側の気持ちを考えたことありますか?」


 「だから、今こうやって、お願いしてるんですますだろうが。ひょろガキは黙ってろ!」 

 一歩も引かない不良だったが、間宮さんも一歩も引くようには見えなかった。


 「誠意があれば、何をしてもいいわけ?くだらないわ」


 「にゃんだとぉ?」


 「人の話も聞かない癖に、他人に自分の価値観を押し付ける。その上、言葉だけの誠意を見せつけるような人の言葉に何の意味があるって言うの?」


 間宮さんの尤もらしい言葉に、不良は珍しく委縮しているように見えた。 それよりも、こんな言葉を訴えて来る間宮さんの姿に私は驚きを隠せなかった。


 「本当に自分の意見を通したいのなら、あなたが変わりなさい。信じて欲しいなら、それが最初でしょ?」


 その言葉に不良は無言のまま、クラスを後にした。


 「中さぁぁぁん」


 「姉さん!」


 バカトリオは教室から、姿を消した。 


 「良かった・・・」 

 間宮さんは青ざめた表情のまま、後ろから倒れ込んだ。


 「間宮さぁぁぁぁん!」


 倒れ込む一歩手前、暁が現れ、彼女を寸での所で受け止めた。


 「間宮さん、平気?」


 そのまま、暁と朝さんは間宮さんを運ぶ為、保健室に向かい、私と矢車さんで、間宮さんの弁当箱を片付けた。 

 矢車さんは、荷物をまとめ、保健室に向かう為、教室を離れた。 

 その日の授業、間宮さんが現れることは無かった。


 終礼も終わり、私は図書委員の仕事の為、教室を後にしようとした時だった。


 「妃夜!」


 「なに?」


 「元気かなと思ってさ。それでなんだけど」


 「あんた部長なんでしょ?早く行きなよ」


 素っ気ない言葉で、その場を後にした私は素直になれない私自身を強く舌を噛んだ。

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