第5話-⑦「魔法」

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 「ごめん、さっきは平気だった?」


 「何が?」


 「何がって、触られるの。嫌じゃなかった?」


 「そういえば、いつもなら、吐きそうなのに、何でか平気」  

 夏祭りに行く道すがら、私と暁は歩きながら、会場を目指していた。 

 少し遠いが、こういう時間も何だか、愛おしい。


 「もしかして、治った?」


 「多分、気のせい。あんまり、糠喜びさせたくないし、期待しないで」


 「そうだね。そう上手くはいかないよね」


 「今思ったんだけど」


 「ねぇー、糠喜びって、なに?」


 久々の暁のツッコミに私はこいつはそういう奴だったと思い出し、笑っていた。


 「あっ、その笑いはバカにした笑いだ。中学生がそんな言葉使わないし、使う必要ないから、いいもんだ」 

 膨れる暁に、私は優しく解説することにした。


 「あてが外れて、ムダな喜びのことよ」


 「そっかー、そういうことかぁ。羽月先生はためになるなぁ」


 「ところで、お金大丈夫?」


 暁の足が一瞬で動かなくなる感覚を感じ取った。


 「やっべ、かーちゃんにお金借りるの忘れてた!」


 「はっ?」


 「どーしよー、ああいう所、電子決済じゃ払えないだろうし、やばい、全財産1200円しかない!どうしよう!」 

 慌てふためく暁に、珍しい物が見たようで、何だか、頬が緩んでいた。


 「ふふふ」


 「さっきから、笑いすぎだぞ、羽月さんさぁ。悪いかよ、お金持ち合わせてなくて」


 「いやいや、最近のあなた、何処か張りつめてたから、気が抜けた感じがして。何だか、あなたらしくて」


 むっとしながらも、照れくさそうな顔のあなたは何処にでもいる女の子のように思えた。


 「帰る。不本意だけど、かーちゃんに金を」


 「今日は私の奢りでいいよ」


 「いや、そんなわけには」


 「今日は卸して来たから」 

 本当は母親から、1万、白夜姉さんからも、1万、父親からも1万の合計三万円も貰ってしまったのだった。


 「あの家見て、思ったけど、妃夜さん、金持ちなん?」


 「そ、そんなことは・・・。普通の家よ、普通の」


 「いや、夏祭りに中学生が3万見せびらかすって、何かもう・・・」


 もしかして、ドン引きされたのか?やばい、どうしよう。


 「ゴチになります!返さなくてもいいよね?好きな物食べてもいいよね?ねっ?ねっ?ねっ?」


 「いいわけないでしょ?お金を忘れた人は黙って、私の言うこと聴いて。OK?」


 「はい、すいません・・・」


 「ふふふ、冗談よ。使いすぎは良くないけど、いつものお礼」


 「いいの、やったー!」 

 ガッツポーズをとる暁の姿に、私は何だか、嬉しくて、何とも浮かれてしまいそうになってしまう。 

 こんな時間がずっと、続けばいいのにと願わずにはいられなかった。 

 本当はお金じゃない形で、あなたに還元したかったのに。 

 不器用な感謝しか伝えられない私はこうでもないと逃げてしまいそうになる。 

 だから、私たちはこうやって、歩きながら、噛み締めていた。

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