第5話ー①「魔法」
1
前回までのあらすじ
AМ8:23 暁家で朝食を取ることになった私たち。
私の体操服は洗濯機に放り込み、乾くまで待つことにした。
私と暁が食堂に行くと神妙な面持ちの宮本さんが座っていた。 台所には、お兄さんが洗い物をしており、この2人だけだった。
どうやら、朝さんはシャワー中らしい。 机を見渡すとやべえ景色が広がっていた。
ご飯と目玉焼き、カリカリのベーコン、サラダに昨日の残りと思われる肉じゃがに、漬物、味噌汁、牛乳、麦茶、バナナにドライフルーツ、ヨーグルト、プロテインと言った混沌とした料理が机に並んでいた。
「朝から、これ・・・」
「全部は食べないよ!」
「分かってるけど・・・」
「詩羽は寝るんだって。俺の部屋で寝てる」
作業をしながら、お兄さんは暁に話しかけた。
「了解。あいつ、男の部屋で何やってんだか」
「詩羽って、誰?」
疑問に思った私は口を開いた。
「朝の本名だよ」
「朝って、名前じゃないの」
私の何気ない言葉に、全員の視線が私に集中していた。
「知らなかったっけ?そうだよ。あいつの苗字は朝。本名は、詩羽なの」
暁は、いつもの調子で話し続けた。
「まぁ、いつも、晴那、朝ってしか言ってないし。茜もそう思ってたし」
「まぁ、あいつ、本名嫌いだからな」
お兄さんは視線を食器に戻していた。
「何でなんですか?いい名前なのに」
私は素直な疑問を暁にぶつけた。
「名前負けしてるの気にしてるんだって。お父さんが、キレイに歌を羽ばたかせ、歌うような子供に育って欲しいって、言ってたんだけど、あんな柄悪くて、何より、音痴だから」
「晴那、言い過ぎ。そういうとこやぞ」
「ごめんごめん。あんまり、名前が好きじゃないんだ。だから、朝って呼んでるの」 宮本さんの言う通りだと心から思った。
しかし、彼女も音痴なのかと思うと、とても他人事とは思えなかった。
「へぇ~。だったら、何でお兄さんは?」
「年上だからね。それに何でか、俺にはキレないんだよなぁ、あいつ」
お兄さん、強いのか、図太いのか。 そもそも、女の子が、一人男性の部屋で眠っているって、どんな神経なんだよと考え込んでしまった。
お兄さんは、ようやく、食器を片付け終わったようだった。
「終わったから、洗濯物干してくるわ。後の洗い物は頼むぞ」
「へーい」
暁は短く、呟いた。 お兄さんは、食堂を後にした。 私と暁は席に着いた。
「はぁはぁはぁはぁ~。晴那ぁぁぁぁぁ。聴いてないぞ、お兄さんが何でいるのよぉぉぉ」
宮本さんは口を開いた。
「そりゃ、実家だからね。いただきます」
淡々と暁は、バナナを手に取った。
「そういう問題じゃない。ご飯が喉通らなかったぞ」
「もしかして、宮本さん、お兄さんと何かあったの?」
宮本さんは、再び沈黙。顔がどんどん、紅潮しているように見えた。
「うん、だって、茜、にーちゃんに」
「やめろぉぉぉぉ。聞こえてたら、どうすんだよ」
「だって、一年前の話なんでしょ?だったら、いいじゃん」
「八か月前だ、バカヤロー」
そういうことかと思った私は口を噤んだ。
これ以上は、宮本さんの地雷だと思ったので、私は麦茶に口をつけた。
「そうだよ。おにーさんに告白しました。そして、フラれました」
吹き出しそうになった口を何とか、抑え込み、お茶を飲み込んだ。
「はぁはぁはぁ。それは、その・・・」
私は何を言ったらいいのか、分からなかった。
「いいんだよ、羽月さん。悪いのは、茜の過去を穿り回すコイツだから」
「色ん゛な゛け゛い゛け゛ん゛が。人を育てるんだよ。それに、にーちゃんも友達になりたいって、言ってたし。このままでのいいの?茜は」
サラダを食べながら、暁は宮本さんを見つめていた。
「いや、別にそういう話したいわけじゃ・・・。気まずいこっちの身にも」
「逃げてたら、いつまでも、このままだよ」
「真剣そうに話すか、ご飯食べるかにしなよ」
「じゃあ、ご飯食べる」
暁はごはんを掻きこみ始めた。
私自身、お前が言うなと思ったが、それ以上は傷口に塩を塗るようなものなので、多くは語らなかった。 宮本さんは、こんなに良い人なのに、何で、モテないんだろう。 私はベーコンを咀嚼していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます