第4話ー③「キミだけがいない世界」

 家に入ると母親では無く、朔夜姉さんが出迎えてくれた。


 「お帰り、泣いてるの?」


 「うん」


 「あっ、そう」


 朔夜姉さんと別れ、手を洗いに、洗面台に訪れた。 手を何度も洗い続け、鏡を見た。 なんて、酷い顔なんだろうか。これが私なんだろうか。 

 私はどうしたら、変われるんだろうか。どうしたら、皆と同じ所に居られるんだろうか。


 再び、メッセージアプリから、暁から電話が来た。 

 本当は出たくなかったが、逃げたくないと思いから、私は電話に出た。


 「さっきはごめん」


 「何が?」


 「気になってて、その」


 「やっぱり、私、変だよね?ごめんね、こんな変で」


 「謝らないで!聞いちゃいけないこと、聴いたあたしがばかなだけだから。だから、妃夜は悪くないよ」


 「優しくしないで、みじめなだけだから」


 「妃夜・・・」


 沈黙が続いた。これだから、電話はキライだ。人の顔が見えない。 

 私自身、何を言えばいいのか、分からなくなるから。


 「よしっ!妃夜!明日、帰って来るから、明後日、〇〇陸上競技場に朝集合!」


 「人の話、聴いてた?」


 「聞いてない!健全な精神には、健全な身体が宿る。だいじょうぶ、あたしに考えがある!一緒に走ろう!」


 「いや、あの、走るって」


 「そうすれば、きっと、大丈夫!動きやすい格好で来てね。水分と食事も忘れないでね。場所送るから!そういうことで!じゃあね!」


 「いや、シリアスの空気壊すなよ!」


 ピッと電話が切れた。


 「拒否権行使させろよぉぉ!」


 「何、独り言言ってるの?」


 「い、いや、友達と話してただけ」


 朔夜姉さんの表情が一気に強張っていくのが分かった。 

 それは何か、恐ろしい物でも観るような瞳だった。


 「はぁーーーー!あ、あ、ああああああんたが、Friend?」


 「英語で話すの人気なの?」 

 頭が良いはずの姉のIQが一気に下がったように見えた。


 「そ、そうだけど、何か?」


 「あ、あはあははははははははは。へぇ~、そうですか、そうですか」 


 朔夜姉さんは、近くのトイレに逃げ込み、扉を閉めて、鍵を施錠した。


 「トモダチトモダチトモダチトモダチトモダチトモダチトモダチ。妃夜に負けるなんて、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」


 朔夜姉さんは神経質で、受験の時も、吹奏楽の大会前も、いつもこうだ。そっとしておこう。 

 そう考えていた頃には、何でこんなに泣き疲れていたのかと考えるのが、バカバカしくなっていた。

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