第4話ー②「キミだけがいない世界」

宮本さんのマンションを訪れ、私は彼女の夏休みの課題を手伝った。 

 やる気はあるが、どうも、空回りしている。暁は物分かりが良かっただけに、どうにも比べてしまった。 

 夕方までには、3割は終わらせたが、その頃にはだいぶ、宮本さんは燃え尽きていた。


 「へいき?」


 「むり」


 「私、帰るね。今日はお邪魔しました」


 待ってと立ち上がろうとする宮本さんは、本当に気遣いの人だ。


 「送るよ」


 「ありがとう」


 宮本さんと私は部屋を出て、突き当りのエレベーターに乗り込んだ。


 「何で、私を信用するの?あんなに私のこと、嫌いだったのに」


 「そういうの言っちゃう?普通は嫌われるから、言わない方がいいよ」


 「分かってるけど、聴きたいの」


 宮本さんは考える素振りをしながら、口を開いた。


 「晴那が信じているからかな?それだけ。それに、普通の人は勉強手伝ってと言っても、手伝ってくれないし」


 「買収しても?」


 「痛い所突くのやめて」


 エレベーターが一階に到着し、お互い、マンションを出た。


 「じゃあ、ここで」


 「ありがとう」


 「何が?」


 「勉強教えてくれて、晴那を信じてくれて」


 「う、うん」


 「じゃあね」


 宮本さんと別れ、私は帰ろうとした刹那、メッセージアプリから、電話が掛かって来た。


 「も、もしもし?」


 「お そ い !」 

 その声は紛れもなく、暁晴那その人の声だった。 

 きっと、宮本さんが気を回したのだろう。


 「な、何が?」


 「何で、連絡くれないのさ?」


 「〇INEはしたよ、けど、あんたが既読つけないから」


 「電話すればいいじゃん」


 「電話苦手。何話せばいいか、分からないし、沈黙が嫌」


 「それより、妃夜。朱音に勉強教えたって、本当?」


 「話の腰折るな」


 「どうなの?」 

 矢継ぎ早に語り掛けてくる暁に辟易したが、何とか、話を止めずに言葉を続けた。


 「そうだけど」


 「あたしもやりたかった!まぁ、やってるけどね!」


 「だったら、要らなくない?」


 「そういう問題じゃないの!」


 「そうですか、分かりました。じゃあ、切るね」


 「待って待って!妃夜、今度、夏祭り行かない?」


 「へっ?」 

 彼女からの突然のお誘いに、私はフリーズしてしまった。 


 「だから、夏祭り!一緒に行かない?2人だけで!」


 「え、いいけど・・・、その何で、ふたり?」 


 「深い意味はないよ。息抜きがしたいだけ。いやなの?」


 女子に人気があるという話や少し前の裸が、頭にチラつき、どうにも、彼女と話す際、動揺を上手く隠せない私が居た。


 「いいけど、他の人たちはいいの?特にあの・・・」


 「朝?アイツ、人混み苦手だからさ、行きたがらないし」


 「そ、そう」


 「いつも思ってたんだけど、妃夜。何で、朝の名前言わないの?」


 ドクンと胸に堪える物があった。 

 私は彼女からの電話を切ってしまっていた。


 私は他人を信じない。誰も信じたくないから、人の名前は言いたくないのだ。 あの時から、私は未だに、誰も信じてはいないのだ。 

 どれだけ、暁や皆と出会っても、私の本質は何も変わってはいないんだ。 

 それが何だか、悲しくて、悔しさが滲んでしまった。

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