第4話ー①「キミだけがいない世界」

 夏休み前、メッセージアプリで連絡交換をしていた宮本さんから、ファミレスに集合が掛かった。 

 話がしたいらしいので、昼前で暑い時間帯で出かける気は失せていたが、暇だったので、相手しようと出かけることにした。


 「遅い、羽月さん、パンケーキおごって」


 「全然、遅くない。むしろ、定刻通りなんだけど」 


 「冗談だってば、冗談。はははは」


 冗談というテンション感でない気もしたが、私は彼女の話を笑って、受け流し、席に座った。


 「何頼む?」


 「ウーロン茶」


 「おっさんかよ、キッツ」


 「他人の飲み物にケチつけないでくれる?ドリンクバーにする」


 「じゃあ、注文するね」 


 宮本さんは、机に置いてあるタブレットに注文、その後、席を立った。  

 私がするのにと思いつつも、グラスに並々のウーロン茶を持った宮本さんが現れた。


 「はいよ」 


 「どうも」


 宮本さんは席に着き、私に視線を合わせた。


 「ねぇー、あれから、晴那に会った?」


 「会ってないけど」


 「じゃあ、知らないよね。アイツ、全国行くって」


 「そうなんだ」


 「そうなの!アイツ、そういうとこあるからなぁ。まぁ、いいや。最近も、県大会あったけど。そもそも、県内でアイツに勝てるヤツはいないし、その前に標準記録突破してたから、当然っちゃ、当然なんだけど」


 「詳しいね」


 「羽月さん。友達なら、感心持たなきゃダメだよ。それ知ったら、アイツ、悲しむと思うな」


 「そうだけど・・・。どう接していいか、分からないと言うか、恥ずかしいと言うか・・・」


 宮本さんの言う通りだ。私は受け身になっている。いつも、暁が引っ張ってくれるから、私は何もしなくても、きっと、どうにかなると思っている節がある。 


 「まぁ、いいけどさ。アイツ、人気高いから、気を付けた方がいいよ。特に女子から」


 「男子じゃなくて?」


 「アイツ、何でか、女人気高いんだよねぇ。羽月さんもそうでしょ?」


 宮本さんの口から、出て来る暁はまるで別人のようで、何処か、遠くの人に思えた。


 「そうかもね」


 「まぁ、今は合宿だし、アイツには会えないから」


 「その話をするために?」


 宮本さんは、赤面しながらも、下を向き、ぼそぼそ、聴こえない声で呟いていた。


 「宮本さん?」


 「そ、そうだけど、そうじゃないし、それもあるんだけど」 

 すぐに顔をあげ、再び視線を合わせた。


 「勉強教えて、今のうちに宿題終わらせたいの!頼れるの羽月さんだけなんだって!」


 これは賄賂かとすぐに納得出来た。


 「きっと、暁はやってないだろうしさ。此処で出し抜くチャンスと思ってて。お願いしますよ、羽月先生!」


 面倒くさい気持ちが強いが、せっかくなのでと付き合ってやろうと思った。


 「分かった。手伝うけど、此処は止めよう。どうにも、集中できないし」


 「じゃあ、ウチ来る?」


 「いいの?親御さんは?」


 「いいし、どうせ、夜遅くにならないと帰って来ないし。居ても、怒る親じゃないからさ」


 暁といい、彼女といい、放任なのか、忙しいのか。 様々な家庭環境があることを知るばかりだった。


 「その前に、パンケーキ食べる?」


 「いらない」


 私と宮本さんは飲み物を飲み終え、席を立ち、会計を済ませ、店を後にした。 会計は宮本さんがしてくれたので、本当に賄賂だったのか。

 たかが、数百円で買収される私ってと考えたものの、たまにはいいかと諦めた。

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