第4話ー④「キミだけがいない世界」

当日。 朝6時28分の〇〇競技場。


 「おっはよぉー」


 「うるせぇ」


 私と暁、ミス無愛想、宮本さんの4人が集められていた。 

 私以外はランニングウェアだが、私は体操服のジャージという情けない格好だった。 

 因みに矢車さんは、フランス旅行、ブロンドは実家のコロラドに帰省中で欠席らしい。 

 加納さんも誘ったらしいが、バックレたようだ。


 「なんで、朱音まで?」


 「ヒマだったでしょ?」


 「だからって・・・」


 私は朝があまり、強くない。だからと言って、ここ最近は早起き出来なかった分、何処か、眠気がとれない。


 「今日は、これから、この辺りを走り込みします!」


 「妃夜も、来てくれて、ありがとう」


 「う・・・うん・・・」 

 あんなこと言ったのに、気を遣っているんだろうか。 私は気まずい。久しぶり過ぎて、どう、接するべきなのか、よくわからん。


 「とりあえず、柔軟とストレッチ!それから、走り込み!想定距離は10」


 バスンと鈍い音で、暁の後頭部を殴ったのは、無愛想だった。 


 「死ぬぞ、いきなり、それは」


 「いてて、10メートルって、ボケをかまそうと」


 「嘘をつくな」


 「えへへへ」 

 この2人の関係性が羨ましい。私は何だか、余所者の気分だった。


 「それで、何キロ走るの?朱音、走り込みキライだから、お手柔らかに」


 「バスケ部は5キロ、メガネは2キロ位でいいんじゃね?」


 「何なん、嫌がらせ?茜、悪いことした、あんたに?」


 メガネと突っ込む元気もない程、体が動いていなかった。


 「朝!羽月だよ、羽月!それと茜!」


 「バスケ部、ポジションどこ?」


 「無視するな」


 「ポイントガード志望の補欠」


 「だろうな」


 「あんだとぉぉぉ!」


 「まぁまぁまぁ」 

 暁が、宮本さんを止めに入る。


 「爪の手入れはいいけど、あんた、足回りがきつい。バスケは瞬発力もだけど、それ以前だな」


 宮本さんは項垂れてしまった。どうやら、図星のように思えた。 

 無愛想はこういう人ということが、何となく分かった。


 「とりあえず、そういう話はやめて、今は柔軟からしよう!おー!」


 朝から、お通夜みたいな空気に、私は今すぐ、自転車に乗って、逃げ出したくなった。


 「メガネ」


 「はい」


 「聞き返すなよ」 

 暁が速攻、ツッコミを入れた。


 「あんたは、どう考えても、モヤシだから、無茶すんな。止まってもいいから、走り切ることだけを考えろ」


 「まだ、何も始まってないけどね」


 「あ、はい」


 意外と普通の話に、何となく私も頷いてしまった。 

 部活をしているかしてないかで、そういう判断を下しているのだろうか。


 「それよりも、柔軟、柔軟!朝は妃夜の柔軟、宜しく!あたしは茜としようね!」


 どうやら、私と無愛想を仲良くさせる作戦のようだ。分かり易いと言うか。


 待てよ、柔軟って、2人同士でくっつくアレじゃ・・・。


 ウインクをして、宮本さんを引き離す暁の姿に、私は動揺が隠せなかった。


 あのオンナぁぁぁぁ。


 しかし、実際の所は、そういう引っ付くようなことも無く、腕回りや足回りや、腰回りを重点的に動かしていた。


 「引っ付くと思った?」 

 無愛想の鋭いツッコミに、私は頷くばかりだった。


 「あんまり、ああいうのは今はいらん。走るだけだから。それに、あんたがそういうのダメなの知ってるし」


 そういえば、保健室に居たな。滅茶苦茶、恩着せがましかった記憶が蘇ってきた。


 「話過ぎた、疲れた、休みたい、帰りたい、寝たい」


 きっと、昨日も練習だったのに、こんな私の為に付き合ってくれるなんて。

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