第2話 とある男の悩み
「今日はこれぐらいにしておこうか・・」
しがない営業の仕事を終えた男は、こうつぶやいた。冴えない今日の疲労感をたたえる何か、とはなにか?いわゆるアルコールなどの
喉を強く刺激するもので、今日の悶々とした
気持ちの憂さ晴らしがしたいと思っていた。
勢いに任せて、喋りつづけた、自分の声が、
緩んでいる。今日の答えはこれでいいんだと
言い聞かせれるはずの心の模様は、ひとしおの涙を誘う、紺碧のブルーな文字ばかり。沸き起こる気持ちの中身なんて、これっぽっちも見かけやしない、急ぎ足な自分が、嫌になる。見かけ上にも、自分はしがないサラリーマンだとしても、この上なく久しい感触に巡り合えない、痛みを感ずる人の波にもまれ、
歩いている。「所詮、人は人、自分は自分か
」まるで、うわごとように、ぶつぶつ、つぶやいている自分がいる。感情の波が穏やかであればあるほど、奇特な感じの人の情緒にあるまじき、自分自身の幻影が、まるで、おおきなうねりのようなものに、引きずり込まれようとしているのを、ひしひしと感じずににはおれない、わがままな自分の心に折れそうになっていた。「ちょっと、あの角を曲がってみよう、何かないかな?」人の不満に高じた、エッヘン顔が嫌で嫌でしょうがない。もうちょっと、楽な顔の人が見たいと、猛烈に
思い描くに、大きな道より小さな道に入りたかった。そこにいるのは、もくもくとたばこの煙を焚いているひとや、グビっと、のどを
潤している人たちの集まりだった。「ここならちょうどいいや」アリバイを証明するために、会社に電話して、今日の業務を終えたのだった。しかしながら、暑い日である。もう、喉は限界を超えていた。ビールの自動販売機にコインを投入して、すぐさまシュパっと栓を開けた。いかすけない人の目線にあおられて、すぐさま、その缶を飲み干した。がっかりした。なんでもないこの行為すら、至福の時を演出するに至らなかった。なぜなら、幸福のしわ寄せとして気に入ったはずのビールが、いまいちうまくないのである。感じているのは気まずさのみで、不必要な水分をとった、腹のたぷつき感である。これは、いかんともしがたい事だった、すべてが水に似たビールの泡である。喉の渇きは満たされても、ホッともしないのである。高給取りではない、自分の身銭の一部をむしられた気分で腹が立ったのだった。その時上空を一機のジャンボジェットが飛んでいき、けたたましいジェット音をかき鳴らしていた。思わず叫びたかった「ちくしょう」それは、大器晩成と言われた自分への報復の咆哮だった。人は必ずと言っていいほど、自分に対する褒美に値する言葉にかけてみるものである。それが、どんなにせせこましい評価であっても、自分にとってはねぎらいになるやもしれない。自分は一体将来、どうなっていくなんてことに言葉があるかとすれば、彼には大器晩成という名誉を頂いたことが、一番に頭をよぎった。でもであるが、久しく期待をかけられてきた会社の上司の言葉といえども、ゆくゆくの安堵を
示す言葉にはむかえずはにかんでいた自分の
あるまじき姿のなぞさえ、迎え酒にもういっぱいという気分になれなかった。究極の選択は、このままぬるい惰性にまかせて、生き延びるか、いっそ、会社を退くかであった。様子を見かねた、とある人が声をかけてきた。
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