25 幕間
ゴールのない迷路を作ったはずだった。
僕が記憶を消せる能力を持っている、だなんて、そんな超自然的なことに行きあたるはずはないし。メイの記憶を消してからの台本も入念に練っていたから。
メイが鏡を見て願ったことにより、思い出したということは――メイは「記憶を戻す」能力を持っているのだろう。兄弟だ。そんな不思議な力をメイも持っていてもおかしくはない。
気を失ったメイをベッドに運んで寝かせて、静かに動く胸を見ていた。可愛いメイ。僕の弟。嬉しかった。「それでも兄ちゃんが好き」と言ってもらえて。僕から逃げ出して、縁を切ることだってできたはずなのに、メイはそれを選ばなかった。
翌朝になって、メイは目を覚ました。
「うっ……あっ……」
また、痛むのだろう。僕が記憶を消すと必ずその人は頭痛に見舞われるのだ。
「メイ、大丈夫?」
「あっ……えっ……? 誰ですか……?」
バカなメイ。僕が君を手離すとでも思った?
僕は、また、兄弟だったという記憶を消した。
「ジュノだよ。どうしたのさ、昨日飲みすぎた?」
「はっ? 何? 何なの? ここ、どこですか?」
「僕たちの家だってば。メイったら、本当に酔っぱらってたからね」
「メイ……?」
メイはこめかみを押さえながら、ゆっくりと身を起こした。
「あの……わからないんです。覚えてないんです。何もかも。自分が誰かもわかりません」
「えっと……君はメイだよ。何だろう。一時的な記憶喪失?」
「そう、なのかもです……えっと、俺たち一緒に住んでるってことですか?」
「うん。僕たち付き合ってるからさ。メイは僕の恋人だよ」
「はっ……?」
今度はそういう設定にした。
「メイと僕のスマホに写真が何枚も残ってるし、メイの服もある。メイが転がり込んできて、同棲始めたんだけどさ。まあ、じきに思い出すって」
「そうなんですかね……とにかく今は、頭が痛くて……」
「ああ、じゃあ薬持ってくるよ。じっとしてて」
「済みません……」
僕はコップに水を入れ、薬と一緒にメイに手渡した。そう、一度目のあの時と同じ。また、メイが記憶を取り戻してしまったとしても、同じことを繰り返せばいいだろう。
「ジュノさん、ありがとうございます」
「他人行儀にしないでほしいんだけど……仕方ないか。身体休めて。ゆっくり思い出して」
「はい……」
メイは仰向けになり、深く呼吸をした。しばらく見守っている内に、それが寝息になり、表情もいくぶん柔らかくなった。
僕はベランダに出てタバコを吸った。今回も上手くやろう。そして、また惚れさせればいい。
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