第10話

バラナシの夕暮れ、ガンジス川のほとりに佇む香織と涼介の心には、それぞれの過去が影を落としていた。真紀の死を解明するために来たこの地で、彼らは自分自身の心とも向き合わざるを得なかった。


香織はかつて、信用金庫で働いていた頃のことを思い出していた。ある融資案件での失敗が彼女の心に深い傷を残していた。彼女の判断ミスが、信頼していた顧客を破産に追い込んだ。その顧客は後に自殺し、香織は自責の念に苛まれ続けた。


「私のせいで、人が死んだのよ、涼介。」香織はガンジス川の流れを見つめながら呟いた。「そのことがずっと心に引っかかっていて、何をしても消えないの。」


涼介は香織の肩に手を置き、静かに語りかけた。「香織、君のせいじゃない。僕も同じように過去の失敗を抱えている。」


涼介もまた、信用金庫での仕事で重大な失敗をした経験を振り返っていた。彼が担当した融資案件でのミスが、複数の小規模企業に深刻な影響を与え、多くの従業員が職を失った。その責任を感じた涼介は、信用金庫を辞めた後もその重荷を背負い続けていた。


「僕も過去の失敗を抱えて生きている。その重さは簡単には消えない。」涼介は香織の目を見つめて続けた。「でも、僕たちはその過去を乗り越えなければならないんだ。真紀のためにも。」


香織と涼介は、それぞれの過去に向き合うことで、自分たちの内面を見つめ直すことができた。ガンジス川の静かな流れが、彼らの心を浄化し、新たな視点をもたらしてくれた。


香織は、自分の過去の失敗を受け入れることで、自分がその痛みを乗り越える力を持っていることに気づいた。彼女は真紀の死を通じて、自分が他人のために何ができるのかを再認識した。


「真紀のために、私はこの真実を見つけ出す。それが私の罪を贖う方法かもしれない。」香織は決意を新たにした。


涼介もまた、過去の失敗を乗り越えるために、自分自身を許すことが必要だと悟った。彼は香織と共に、真紀の死の真相を解明することで、自分の罪を浄化することができると信じていた。


「僕たちがここで何を見つけるか、それが僕たちの未来を変えるんだ。」涼介は静かに言った。「真紀のために、そして自分たちのために。」


ガンジス川のほとりで過ごす日々の中で、香織と涼介は互いに支え合いながら、過去の傷を癒し、新たな希望を見出していった。彼らは真紀の死の真相を解明するために全力を尽くすことで、自分たちの内面もまた再生していくことを感じていた。


ある朝、日の出の光がガンジス川を照らす中で、香織と涼介は再び誓いを立てた。


「私たちがこの真実を見つけることで、真紀もまた再生の道を歩むことができる。」香織は涼介に向かって微笑んだ。


「そうだ、香織。彼女の死を無駄にしないために、僕たちは全力を尽くそう。」涼介もまた、固い決意を胸に秘めた。


ガンジス川の流れと共に、彼らの心もまた再生の旅を続けていく。真紀の死の真相を解き明かすことで、香織と涼介は過去の葛藤を乗り越え、新たな未来を切り開くことができるだろう。彼らの旅はまだ続いていたが、その旅の中で見つけた希望と力が、彼らの未来を照らし続けるのであった。

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