第9話

香織と涼介は福岡空港からデリーへ向かう飛行機に乗り込み、真紀の死の真相を解明するための旅が始まった。デリーに到着した彼らは、すぐにバラナシ行きの列車に乗り換えた。真紀が辿った道を再び追いかけることで、彼女が見たもの、感じたものに少しでも近づきたいという思いが二人の胸に広がっていた。


列車の窓から見えるインドの風景は、前回と同じように広大で、どこか神秘的な空気を纏っていた。真紀がこの風景を見ながら何を考え、何を感じていたのか、香織は静かに思いを馳せた。


「真紀がここで何を見つけたのか、私たちも見つけなければならないわね。」香織はそう言いながら、窓の外に広がる大地を見つめた。


涼介は頷き、「彼女の足跡を追って、全てを明らかにしよう。」と静かに答えた。


バラナシに到着した香織と涼介は、真紀が滞在していた宿に向かった。そこでは、真紀を案内してくれたガイドのラージ・クマールが待っていた。ラージは彼らを見ると、深い悲しみと同情の表情を浮かべた。


「真紀さんのこと、本当に残念です。」ラージは静かに言った。「彼女がここでどんな経験をしたのか、私も全力で協力します。」


香織と涼介は感謝の意を示し、ラージに真紀がここで過ごした日々について詳しく話を聞いた。ラージは真紀が参加した再生の儀式や、彼女が訪れた場所について語り始めた。


「彼女はガンジス川のほとりで、再生の儀式に深い感動を受けていました。そして、その後、この街で絵画『再生の川』を見つけました。」ラージは続けた。「その絵画には、彼女の心を強く引きつける何かがあったようです。」


ラージの案内で、香織と涼介は美術史家のアミタ・パテルに再び会いに行った。アミタは真紀の死について知り、深い悲しみを表した。


「真紀さんが亡くなったことを聞いて、本当に悲しいです。」アミタは静かに語った。「彼女が持ち帰った『再生の川』の絵画について、さらに詳しく調査する必要があると思います。」


アミタは絵画の背後にある歴史や、その絵に込められた意味について語り始めた。絵画はインドの古代文化と再生の象徴を描いたものであり、その背景には深い宗教的意味が隠されているという。


「この絵画は、再生と共に犠牲を伴うことを象徴しています。それが真紀さんにどのような影響を与えたのか、私たちはそれを探る必要があります。」アミタは真剣な表情で語った。


香織と涼介は、真紀の過去や彼女がインドでどのような体験をしたのかを詳しく調べ始めた。彼女が書き残した日記や、旅行中に撮影した写真を丹念に見直すことで、彼女の心の動きに触れようと試みた。


真紀の日記には、ガンジス川での再生の儀式に感動した様子や、そこで出会った人々との交流が詳しく記されていた。特に「再生の川」の絵画に対する思い入れが強く記されており、彼女がその絵に心を奪われた理由が少しずつ明らかになってきた。


「この絵は、私の心を浄化し、新たな希望を与えてくれる気がする。」真紀の日記にはそう書かれていた。


香織はその言葉を読みながら、真紀の心に触れるような感覚を覚えた。「彼女は本当に再生を求めていたのね。」


涼介もまた、真紀がインドで経験したことの重みを感じていた。「彼女がこの絵画に見つけたものが、彼女の死に繋がったのかもしれない。私たちはその真実を見つけ出さなければならない。」


香織と涼介は、真紀の足跡を辿りながら、彼女の死に隠された謎を解き明かすための手がかりを探し続けた。ガンジス川の静かな流れに耳を傾けながら、彼らは真紀の心の中にあった再生の力と犠牲の意味を理解しようと努力した。


「真紀のために、必ず真実を見つけ出すわ。」香織は涼介に向かって決意を新たに語った。


「そうだな、香織。彼女の死が無駄にならないように、全力を尽くそう。」涼介もまた、固い決意を持っていた。


ガンジス川のほとりで、二人は静かに誓い合った。真紀の死の真相を解き明かし、彼女の再生の願いを成し遂げるための旅は、まだ続いていた。

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