第3話 魔力ゼロ③
おでん『多分、この草だったよな。今思えばスマホって便利だったんだな。』
しばらく採取に没頭していると、背後から突然、唸り声がして中型の魔物が襲い掛かった。おでんは、唸り声にも慌てずそして振り向かず、逆に唸り声を合図として左脇に挟んでいた剣先を後ろに押し出した。見事に襲い掛かった魔物を串刺しにした。
おでん『まずは一匹。』【あと二匹】剣を魔物から引き抜き、そして上向きで寝た。剣は下半身方向に斜め45°ぐらいで構えた。飛び掛かってきた魔物が串刺しになった。
おでん『ズバリだ。』【あと一匹。左足を噛まれたあと飛び掛かってくるところを剣で刺すんだったな。噛まれるのを分かっていて待つのは精神的な苦痛だな。回避できないのかな。】
噛まれるのを座って待っていると左方向から唸り声がして飛び出してきた。咄嗟に剣を振ったが、その剣を余裕で噛んで攻撃を受け止めてしまった。
おでん『しまった!』飛び掛かった魔物の勢いに押されて剣を奪われてしまった。
おでん『やばい!剣が無い。見た未来が変わった?』奪われた剣を取り返したが、そっちの方向には魔物がいるだろう。とりあえず反対方向に逃げだした。が、左足に激痛が走って倒れた。噛まれたのだ。板切れは全く役に立たなかった。
おでん『痛い!痛い!痛い!』右足で蹴って引き離そうと思ったら、噛んだ状態で俺を振り回し、背中から叩きつけられた。
おでん『グッ!』息ができなかった。
【剣が無い。死ぬのか。そもそも薬草取りで出てくるのはスライムじゃなかったのか。ここでも運がないのか。】と思った。
魔物が俺の左足を離し、唸り声とともに襲い掛かろうとしているのが見えた。
おでん『くそっ。剣じゃなくてもいい。石でもないのか。』と手を動かす。魔物が飛びかかってきた。
魔物『ギャン。』魔物の頭に短剣が刺さっていた。
おでん『はあ、はあ。あ~。思い起こせば、銅の剣じゃなくてもっと短い剣だったわ。せっかくのスキルも見えたものを全て覚えてないんじゃ意味がない。…でも、生きてる……。』
“おでんは、錆びた短剣を拾って装備した”
おでん『むっちゃ足が痛い。この薬草を…どう使えばいいんだ?とりあえず絞って汁を塗ってみるか。ヒ~、沁みる。効いてる証かな。でも出血が止まらない。薬草を当てて、なにかで固定できないか。』と思って、破れたズボンの裾を切って巻いた。
おでん『もう疲れた。帰ろう。』【この魔物を持って帰ったらお金になるかな。今は一文無しだし、やるか!】
奪われた銅の剣を探し出し、狼?3匹を担いで町に向かった。
おでん『見えた。こっちの方角で合ってた。』
門番『おいおい、大丈夫か。それはフロックンウルフじゃないか。』
おでん『なんとか大丈夫です。』と一言いうのがやっとだった。
去って行くおでんを見送りながら
門番『確かF級だったよな。数匹の群れで狩りをするフロックンウルフを倒すなんてソロだとC級レベルなんだが…。』
おでんはギルドに入った。魔物と一緒に。
受付『おでんさん。どうして!フロックンウルフ!はっ、噛まれてませんか?』
おでん『襲われてなんとか倒しました。これってお金になりますか。…あと足噛まれましたけど、薬草を巻いておきました。』
受付『!この魔物は毒を持ってるんですよ。早く解毒しないと死んでしまいますよ。私、解毒魔法できますから傷を見ますね。』
おでん『お願いします。』
受付『どうして、フロックンウルフが……っ…。おでんさん、どこに行ったんですか。足に貼ってあるのは薬草ではなく毒消し草ですよ。もう!でもそのおかげで毒はないようね。念のために“キュアポイズン”“ヒール”これで怪我も大丈夫よ。本来はお金を貰いますけど、今回だけ特別ですからね。』
おでん『ありがとう。多分、道に迷ったのかなあ…。』
受付『薬草と毒消し草の採取場所の方向は全く逆ですよ。まずはこの辺の地理を覚えてもらう必要がありそうですね。』
おでん『…文字も覚えなければならないのに、地理もか。仕方ないか。で、この魔物はお金になるかな。あと間違えて採取した毒消し草は買い取ってもらえるのかな。』
受付『もちろんよ。薬草よりも高く買い取ります。魔物は、かなり高額ですね。この魔物の毒は高値が付くのよ。隣の解体屋さんに連絡しておきますね。まずは休んでください。』
その後は、解体屋さん?が来て魔物を持っていってくれた。俺は、椅子に座ってボーっとしていた。
どこかに行っていた受付が戻ってきて『おでんさん。どうしたんですか?体調悪いんですか?』
おでん『えっ?お金が無いし、寝る場所もないので。』
受付『あっ、ごめんなさい。お金は、もう口座に入っていると思います。』
おでん『口座?持ってないけど。』
受付『冒険者カード発行時に口座が付いてきますので。説明書に書いて……文字が読めないんでしたね。失礼しました。カードを出してください。』
おでんがカードを出すと
受付『この画面を見てください。これが口座の残高になります。あとは寝るところというか住むところですね。ちょっと待ってください。………残念ながらギルドの寮は現在満室ですね。どうしましょうか?フロックンウルフ3匹は高額買取でしたのでこの金額であれば3ヶ月は依頼を受けなくても宿に泊まれますよ。』
???『このギルドの休憩室を貸そう。』受付嬢の背後に強そうな男が立っていた。
受付『ギルマス。いいんですか?』
ギルマス『お前が報告でべた褒めしている男だからな。F級の新人なのにC級の魔物を倒したらしいな。そのへんは優遇させてもらおう。食事はそこの酒場でいいだろう。あとは風呂はないから、マリー、手当を付けるからクリーン魔法をしてやってくれ。ほれ、試しにやってやれ。』
受付=マリー『分かりました。“クリーン”』
俺はその魔法でスッキリした。まるでお風呂に入ったような、そして服は洗濯されたような感じがした…が、それどころではなかった。目の前のギルマスにビビってしまった。俺でも分かる。強さの次元が違う。
ギルマス『どうした。スッキリしただろ。』そう言われて我に返った。
おでん『はい、スッキリしました。ありがとうございます。あの~、休憩室を借ります。』
ギルマス『うむ。色々話は聞きたいが、疲れてるだろうからそれは明日にしよう。』そう言って階段を上って2階に行った。おそらく2階にギルマスの部屋があるのだろう。
マリー『休憩室は、私の後ろの通路を行って…』と説明を受けた。
おでん『ありがとう。えーと酒場で食事をしたいんだけどお金はどうやって下ろせばいいですか?』
マリー『私は受付なのでそんなにかしこまらなくてもいいですよ。お金は下ろしたい金額を言っていただければ渡します。あとギルド内の酒場であればカード決算で自動で口座から引かれますし、外のお店でも大体キャッシュレスに対応しておりますので便利ですよ。』
おでん『そんなシステムとは……もしかして。』
マリー『ええ、地球からの転生者が作られたシステムですね。便利ですよね。』
おでん『そうですね。』
俺は、食事を頼んで、ついでにアルコールも頼もうとして、ふと振り返り一通り見回した。
おでん『アルコール?お酒?ビール?えーっと…。』
マスター『ビールで通じますよ。転生前の世界のビールに近い味だと言われてます。』
おでん『いっぱいある?』
マスター『?まあ、酒場ですからありますよ。酒豪というわけですか。』
おでん『いや。』そう言って振り返り、フ~と息を吐いた。
そして大声で叫んだ。『今日、この世界に来ました“おでん”と言います。冒険者になったばかりで右も左も分かりません。ここで皆さんに出会えたのもなにかの縁だ思っていますので、全員にビールを一杯だけ奢らせてください。よろしくお願いしま~す。』
しかし、シーンと静かだった。【スベッた?】と思ったら、大歓声が上がった。
ギルド内の広場にいた全員にビールが行き渡り、宴会のようになってしまった。
そんな中、冒険者A『太っ腹だなあ。』と話しかけてきた。
おでん『今日、初依頼で死にかけました。死んだらお金を持っていても仕方がないので。』
冒険者A『そうか。そうだな。まあ、困ったことがあったら相談してくれ。ご馳走さん。』
それを聞いて、おでんはニヤリとした。奢った意図は、敵対者を作らず、味方を作ることだったのだ。うまくいったと思った。
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