色相

 最寄駅からダラダラと続く道を歩いて来ると額に汗が滲む季節になった。歩き慣れた道。見慣れた景色。あっという間に季節がひと通り巡って、僕はまたここに立つことになった。


 サマーガーデン青葉台はかつて玉坂の家があった場所にひっそりと姿を現した。

 言うまでもなく、きちんと正当な手順を踏んで、コンパクトサイズの賃貸マンションが建てられたのだ。そして先週から僕はここの住人になった。マンションの世話を焼く代わりに、叔母が格安で貸してくれて、大学へはここから通うことになった。

 一階の居室には小さな庭がついている。そこには、整地する際に伐採を逃れた一部の庭木が葉を茂らせていて、芙蓉の木が一本と、サルスベリが二本。それと、こっそり採っておいた黒い丸い種を撒けば、だいぶ玉坂の家の庭に近くなる。

 僕は掃き出し窓から身を乗り出すとサンダルをつっかけて庭に出てみる。植えたての芝はまばら。それが途切れるあたりに、まだヒョロヒョロとした頼りないオシロイバナの株が葉を伸ばしている。

 こっくりとしたピンク色や、ピンク混じりの白い花がたくさん咲くと良い。透き通った質感の手がするりと伸びてきて花を摘み取る所を想像して、僕は少しだけ笑みを漏らした。

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