深夜二時

「だいたいさぁ、怪談って丑三つ時じゃない。なんで昼間に出てくるのかしら」


 母はそう言って首を傾げた。

 最近では透けていたり、何かの途中でふと消えてしまう事が多くなったユリさんは、そろそろ現れる季節も終わる。

 ここを売ってしまったあと、ユリさんはどうなるんだろうか。一応、あの簡素な仏壇や位牌や遺影なんかは叔母の家に引き取ることで話がついたらしい。となると、叔母の家に現れることになるんだろうか。或いは、この土地にずっと?

 それに、ここで過ごしてわかったことだけど、ユリさんはきちんと夜中にも現れる。

 ついこの前の真夜中、喉が渇いて目が覚めてしまった時のことだ。

 細く開けたままの窓から流れ込んでくる濃いオシロイバナの匂いに誘われて庭を覗いたら、庭にユリさんが立っていた。薄っすらと透けた身体は夜風に揺らめくように濃淡が変わる。慣れてしまった存在だからまるで恐怖を感じないけれど、その時は何故だか見てはいけないものを目にしているように感じた。僕は息を潜めたままでそっと視線を剥がすと、音を立てないように、台所まで静かに歩いて水を飲む。

 そんな時刻に見るユリさんは、普段とは違ってこの世の存在ではないことを強く感じさせるのだった。

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