カラカラ
母が訪ねて来たのは午後二時だ。晩夏とは言え照りつける陽射しの中を歩いたとあって、庭から直接顔を出し、縁側に座り込むと汗を拭う。
赤い顔をしているなぁ、と妙に冷静に観察しながらグラスに入った麦茶を出す。
「やっぱり駅から遠いわねぇ。バスの路線も途中までしかないし、幾らにもならないわ、きっと」
その言い方で、ここを売ることが決まったのだと知る。
「更地にするの?」
「まだ決まってないけどたぶんね」
母はぐいっと麦茶を煽った。白い喉が動いて、刻まれた皺がうねうねと連動する。白髪を隠すために茶色に染めた髪を、シーグラスみたいな飾りのついた髪留めで束ねてある。
それから、何かを探すように家の中に目をやる。
「……ユリは?」
居間のちゃぶ台にコップがひとつ乗っている。薄くなったカルピスと、その足元には水溜まり。今朝、ユリさんが作って飲んでいたやつだ。そのままにしてふらりとどこかへ消えてしまった。
「相変わらずねぇ。昔から、やりっぱなし、出しっぱなしの常習犯よ、ユリは」
どこか面白そうに唇を歪めた母がそう言って、それを肯定するように、グラスの中の氷がカラカラと鳴った。
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