朝凪

 早朝の庭を歩いている。先日かなり集中的に草むしりをしたはずなのに、もう至る所に雑草が生え始めていて、僕は少しげんなりする。

 庭の敷石の脇で、これはと思って引き抜かずに残しておいたツユクサが涼しげな青い花をいくつも咲かせている。子供の頃にツユクサの花でハンカチを染めようとしたことがあった。きれいな青いハンカチが出来たら素敵だと思って小さな花弁をいくつもいくつも集めたのに、集まった花弁は思ったよりもずっと少なくて、あんまりちゃんとした色が出なかった。あの後、そのハンカチはどうしたのだったか。

 思い出せないまま尚も庭を歩いていると、どこからか濃い花の匂いが漂ってくる。キョロキョロと見渡してみれば、どうやらオシロイバナがその発生源らしい。

 庭の隅で大きく育ったオシロイバナが気持ち良さそうに枝葉を伸ばし、たくさんの花を咲かせている。こっくりとしたピンク色や一部だけピンク混じりの白い花。僕は何となく、頭の中でメンデルの遺伝の法則を思い浮かべる。

 視界の端からひょいと伸びた白い腕が特に濃いピンク色をしたラッパ型の花を摘み取っていく。

「そろそろ萎んじゃうね」

「オシロイバナ?」

「そう。夕方から咲くんだよ、これ」

 知らなかった、と呟けば、得意げな顔をしたユリさんがすぼんだ花の先を咥えて蜜を吸う。

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